CyArkがシリア文化の記録と歴史保全をISISの目前で実行中
2001 年、タリバンはダイナマイトや対空砲、大砲を使って、アフガニスタン中部にあるバーミヤンの石仏を破壊した。この破壊活動は数週間に渡って行われ、石仏は跡形もない。
この悲惨な事態の展開が、豊かな文化遺産をテクノロジーによって未来の世代に残そうという NGO、CyArk 設立のきっかけとなった。CyArk は2003 年以降、レーザースキャンや写真、写真測量法、3D キャプチャを使用して、世界各地で 200 カ所もの遺跡を記録している。
CyArk で業務執行取締役を務めるエリザベス・リー氏は「アフガニスタンにある遺跡は、リアル 3D やエンジニアリングによる記録がなければ消失してしまいます」と語っている。「そこで私たちは世界各地の遺跡を訪問してキャプチャすることを始めました。これにより、もし遺跡に何かが起こったとしても、将来的な復元に使用できる記録が残ります」。
残念ながら CyArk は、歳月や環境、自然事象による荒廃で消失してしまう遺跡のキャプチャだけに集中することはできない。ISIS などの新興勢力により、CyArk の最優先事項はシリアの遺跡になっている。今後それほど長くは存在できないかもしれない史跡を、デジタル保存しようとしているのだ。
「緊急性は確実に高まっており、目的もより明確になってきています」と、リー氏。「意図的な破壊が大幅に増加しています。CyArk は、ある意図的な破壊に呼応するために設立されました。過去 18 カ月間に渡って、こうした遺跡をターゲットにした破壊を目の当たりにしたことが、我々の活動の焦点と遺跡情報のキャプチャの重要性を、ますます明確にしています」。
これは、歴史的建造物自体の消失だけではない。「建造物や芸術作品は、これまでの世代が経験や世界観を伝える手段として残してきたものであり、それを失うことは昔の人々との対話手段を失うことを意味します」と、リー氏。「だからこそ、私たちの現在の活動、紛争地域へのチームの派遣が、かつてないほどの急務となっています。遺跡は加速度的に失われているのです」。
シリア国内の遺跡のキャプチャ
CyArk は、まずは遺跡のキャプチャに必要なテクノロジー (FARO スキャナーと Autodesk AutoCAD、Recap 360 Pro ソフトウェア) の運用に習熟させるため、シリア人チームにレバノン・ベイルートでトレーニングを提供した。
CyArk フィールド マネージャーのロス・デイヴィソン氏は「比較的安全に活動できる地域です」と話している。「プロセス全体の質とスピードを向上させることで、紛争が活発でリスクの高い地域に入った際にも、とても効率的に作業できます」。
トレーニング後、チームはシリア・ダマスカスに戻って作業を開始した。遺跡のサイズとキャプチャの解像度により異なるが、遺跡の記録にかかる時間は通常 1 日から 3 日、より大型の遺跡でも最大 2 週間ほどになる。このテクノロジーは、紛争が激化している地域にある遺跡でも、ほぼ気付かれずに記録できるのが利点だ。
「ごく小規模の特別部隊を派遣でき、またテクノロジーの面でも現段階で 2 名 (カメラ担当 1 名、スキャナー担当 1 名) を配備すれば、ほぼ秘密裏に遺跡全体を数日で記録可能になっています」と、デイヴィソン氏。
こういった遺跡ではリスクが高いため、CyArk はデータのキャプチャにドローンなどのテクノロジーは使用できない。作業が人目を引いてしまうためだ。「ドローンは音が大きくて目立つ上、発信源の追跡も容易です」。
時間との闘い
CyArk は、地元の文化遺産関連の専門家や建築家、考古学者、測量技師との連携にも相当の時間を費やしている。それによって、遺跡のキャプチャだけでなく、地域に暮らす人々の歴史を保存するツールを提供し、人々に力を与えているのだ。
「組織が海外に出向いてプロジェクトに取り組むことは多くても、プロジェクトの完了とともに関連情報やテクノロジーも国を去ってしまいます」と、デイヴィソン氏。「現地にインフラやテクノロジーを活用する知識を持つ人材がなければ、持続可能なプログラムにはなりません」。
非営利団体として CyArk が維持すべきもうひとつの要素が、できるだけ多くの遺跡をキャプチャするのに必要な財力だ。
「この取り組みを行うためのニーズには際限がありません」と、リー氏。「ロスがシリア人 5 名に対して行ったトレーニングは、2 カ 月のうちに 3 倍の 15 名まで増加しました。彼らはこのテクノロジーを渇望しており、紛争の激しい地域に出向くことも厭いません。自分たちの文化と歴史の保存は、彼らにとってそれほど重要です。だから、これは時間との闘いなのです」。
畏敬を感じる瞬間
だが一刻を争う状況であっても、遺跡とそれが象徴する文化は時に非常にパワフルなものであり、思わず足を止め、うっとりと見入ってしまうこともある。あるとき、デイヴィソン氏はアルメニアで修道院をキャプチャする数十名のトレーニングを指揮していたが、その一帯の厳粛さに圧倒された。
「岩をくりぬいて作られた修道院で作業を行っていたのですが、最初の 1 時間は高校生のグループを連れて見学させていたのです」と、デイヴィソン氏。「修道院の内部はかなり暗いので、採光についての話をしていたのですが、周りを見渡したとき、一瞬歩みが止まり、「ああ、なんて素晴らしいのだろう」と思ったのです。しばらくぼうっとしていましたが、「ああ、そうだ…… 採光の話だった!」と我に返りました。遺跡に出向くたびに、その美しさに心を奪われてしまいます」。
リー氏は、取り組みについて寄せられるフィードバック、今後の取り組む対象になりえる可能性のある遺跡も、同様のストーリーを語っていると述べている。「遺跡はその国のプライドであり、文化と歴史の強力なシンボルです。歴史の書き換えを目論む人々にとっては、彼らがメッセージを伝えるにあたって、こうした遺跡を消し去ることが不可欠です。そうした憎悪や叙事の書き換えへの反論という意味でも、遺跡の記録は重要なのです」。