コネクテッドBIM: つながるBIMという新しい形
最も安価なテクノロジーに属するセンサーが、世界最大規模の産業である建設業を完全に再定義しようとしている。これは、なかなか面白い組み合わせだ。
センサーは比較的シンプルなもので、何かに取り付けて、温度や湿度、明るさ、動きなど、あらゆることを測定する。同様にGPSテクノロジーも単機能の技術で、こちらは取り付けられたものの位置を知らせるだけ。
だが、この2つのテクノロジーをクラウド上の3Dモデリングと組み合わせると、それは単なる生のデータではなくなる。実際の建設現場と、クラウド上にあるデジタルの建設現場がリアルタイムにつながることで、効率とプロジェクト管理に無限の可能性が提供されることになる。
これら3つのもので導かれる「コネクテッドBIM」が、建設の実践を劇的に変化させることになるだろう。これはBIM (ビルディング・インフォメーション・モデリング) にクラウドのパワーを加えたもの。建設業界が直面している、増え続ける課題に対処するためにも、BIMの進化は必要不可欠だ。
建設業界のディスラプション
マッキンゼー・アンド・カンパニーの「建設業界のディスラプションの機は熟した」という見解には、私も全く同感だ。建設は巨大産業だ。建設業界は世界のGDPの6%を占めており、その雇用は約2億人にもなる。
残念ながら建設業界は、こうした変化への対応準備がまるで整っていない。デジタル化が、ほぼ行われていないのだ。マッキンゼーの報告書によると、建設業界で先進技術に投入されている予算は収益のわずか1.2%で、この割合は農業と狩猟のそれをわずかに上回るのみだ。
一部の政府は、建設プロセスの合理化、近代化のためBIMテクノロジーの義務化を進めている。例えば2016年の時点で、イギリスでは全ての公共事業に対してLevel 2 BIM (コラボレーティブな3D BIMの使用/英文情報) が必須となっている。だが、プロの建築家やエンジニア、施工会社が、BIMの採用以前に何もしていなかったわけではない。
その理由は、建設における生産性の改善が、切実に必要とされているからだ。マッキンゼー・アンド・カンパニーは昨年、大規模インフラ建設プロジェクトでは「完成までに予定スケジュールよりも20%長く時間がかかり、予算を最大80%オーバーしている」とレポートしている。
ここで2つの流れが浮かび上がってくる。ひとつは、BIMの標準化が進んでいるということ。もうひとつは、現在技術面で先行している業界のリーダーは、競争のトップに立ち続けるべく、今後も熱心に取り組むだろうということだ。
政府による義務化が行われていない米国でも、施工会社各社はBIMにかなりの投資を行っている。建設業におけるBIMに関して、2014年の「SmartMarket Report」では、施工会社は2年以内にBIM関連業務の50%増加を見込んでいると報告されている。
クラウドコラボレーションとコーディネーション
コネクテッドBIMの本当の利点は、クラウドとモバイル技術の連携が全く新しい時代を実現すると、人々に少しでも理解されたときに明らかになるだろう。建設現場での情報伝達には、いまだに大量の紙が使用されている。明らかな非効率性と膨大なコストに加えて、図面を印刷した時点で、その図面が既に古くて役に立たないものだということも大きな問題だ。
建設現場での図面の管理に、情報をリアルタイムで常時追跡、更新できるモバイル技術を使用することにより、チーム内の誰がいつ、なぜ、どのように何を行ったのかの、信頼できる情報が構築できる。プロジェクトのライフサイクル全体にわたって、全てをクラウド内で直接追跡可能となる。
コネクテッドBIMは、より優れた効率性と高い品質を実現しながら、建設プロジェクトのリスク管理にも役立つ。大量のデータをキャプチャして分析し、今後のプロジェクトを最適化することが可能だ。
例えば電気技師と配管工がプロジェクトに関与する場合、プロジェクトの遅延を明らかにするデータを収集できる。遅延の原因を詳細に分析することにより、配管の遅延が材料調達の遅れやオーダーのミスで生じたと分かる場合もあるだろう。あるいは、作業は完璧かつスケジュール通りに完了したが、配管工が既に作業を終えた部分に後から壁に穴を開ける必要が生まれ、配管工が作業をやり直したからなのかもしれない。「配管の遅延」だけでも、これだけ多くの要素が包含されている可能性がある。だがデータがあれば、配管や電気工事をうまくスケジュールする手段を見出し、配管工や電気技師に適切なタイミングで仕事を依頼できるようになって、今後のプロジェクトを予定通りに進められるようになるのだ。
VRとIoTを追加可能
コネクテッドBIMのもうひとつの恩恵は、このデジタルコラボレーションがVRへの扉を開く点にある。その実際の応用を目にするまで、VRは突飛な機能のように思われがちだ。プロセスの決定や変更が、現在はメール経由でどのように行われているのか考えてみよう。そして変更が必要な部分を、VR環境を活用して建設作業員に現場で説明できるような状況を想像してみてほしい。読者と作業員は、行うべき作業の説明やメールのやり取りの代わりに、同一の3D環境による完全な没入体験を共有して、全く同じものを見ることができるのだ。この種の没入型VR体験は、一度実際に体験すれば、あっという間にコミュニケーションの定型手法として取り入れられるようになるだろう。
IoTは、BIMを根本から再定義し、全く新しい文脈に当てはめられるテクノロジーだ。IoTにより、建設現場の潜在的なパフォーマンスが解き放たれることになる。だが現在は、現場やそれ以外の場所にある人間と機械、材料の関係やその効率を把握するのは難しい。
建設現場にあらゆる種類のセンサーが装備されれば、人々がどこで時間を過ごし、機械がどう使用されているのかを理解し、材料が到着しているかどうか、取り付けられているかどうかを確認できるようになる。こうした情報全ては、クラウド上のダッシュボードにキャプチャされ、集計される。このビッグデータはその後分析され、うまく機能している部分、そうでない部分のトレンドの特定に使用される。
このテクノロジーが何千、何万というプロジェクトで使用されるようになれば、うまくいくプロジェクトとそうでないものがある理由が、関係者にとって、より把握しやすいものになるだろう。それをさらに拡張させれば、さらに興味深いものとなる。Redpoint Positioning、Pillar Technologies、Human Conditionといった企業は、情報をキャプチャし、建設現場における人々の行動を明らかにするためにセンサーを使い始めている。
Human Conditionは、作業員が積み荷をどう運搬し、どのようにハシゴを上るのかを理解し、そうした動作の際に作業員正しいフォームを保っているかどうかを分析することができる。データを活用することで、作業員が身体を曲げすぎていたり、間違った方法で身体を曲げたりしていないかの判断に基づいて、今後のケガの発生を実際に予測できるのだ。これを世界各地の何千万人もの建設作業員に対して行えば、ケガの発生自体を防げるようになる。
こうしたコネクティビティが効率や安全性、コストの改善など、建設現場のあらゆる側面に与える影響を理解すれば、もはや業界がこの方向に進むかどうかは問題ではなく、重要なのは、どれだけ早く進むのかであるかが分かるだろう。