Advanticが倒壊する建造物へコンクリートと鋼を代替する新建材で対抗
鋼とコンクリートを使った、老朽化の進む構造物では、錆びつきと腐食、苛酷な気候へさらされることが共通の悩みとなってきた。だが時代は変わり、材料は進化している。オハイオ州デイトンの Advantic などイノベーティブな企業が、従来のコンクリートと鋼を代替する新建材として実績を上げる構造用複合材料により、建設業界にディスラプティブな変化をもたらしつつある。
研究開発と先端材料の生産研究施設である Cornerstone Research Group のスピンオフとして誕生した Advantic は、新建材となる先端材料を建設業界へ提供することに重点を置いたスタートアップだ。Advantic のプレジデント、ブラッド・ドゥーディキャン氏は「我が社は、建設業界における“EASY BUTTON”のような存在です」と述べる。「複合材料が適切なソリューションなのであれば、具体的な問題に対処できる適切な材料のソリューションを模索したいと考えています」。
複合材料は異なる 2 種類の材料を組み合わせることで、より軽量な、もしくは耐久性に優れた代替材料を生成する。Advantic 運営部門のジェフ・ニールセン副社長は「主に繊維ガラスとさまざまな種類の樹脂化学技術を使い、航空宇宙業界で開発された材料を用いて、そのテクノロジーを民間市場や建設へと活用しています」と話す。
Advantic は 2013 年に資本金を調達し、ニューヨーク市の地下鉄システムが消防規則の要件を満たすよう、高分子複合材料成型による換気装置で支援を行う、初めての大型プロジェクトを完了させた。この新材料は、コンクリートより 75% も軽量ながら同等の圧力強度を保ち、非腐食性で、高周波の透過性に優れている。この特性は、プロジェクトの保守要件において決定的に重要だった。
Advantic のプロジェクトはどれも独自性が強いため、仮予算やエンジニアリング、材料手段の調整から建設、設置に関する助言まで、クライアントの関与は広範に及ぶ。Advantic は社内で製造を行い、溶接を必要としないボルト接合のコンポーネントを生産する。「最終的に顧客へ提供することが多いのは、建設用のキットです」と、ドゥーディキャン氏。「ナットやボルトを含むコンポーネントで、トラックで現場へ運搬されます」。
次なる Advantic のプロジェクトは、さらに大きなチャレンジとなった。それはオーストラリア内陸部の苛酷な環境下にあるカルグーリー金山の、腐食の進んだスタジアム サイズの鋼板製屋根の補強だ。しかも、チームに与えられた時間はわずか 10 日しかなかった。
カルグーリー金山の解決策を長年模索してきた Newmont Mining Corporation は、一時閉鎖の危機に直面していた。一般的な補強手段では時間がかかり、そのコストと多数の架設クルーが必要となる点が障壁だった。アプローチを受けた Advantic は、この機会に飛びついた。
「彼らと行なった当初のエンジニアリングで、弊社の軽量かつ極めて堅牢な複合材料とデザイン能力を活用して、構造物の問題へ対処できることを説明しました」と、ドゥーディキャン氏。「その結果が、主要な構造要素の修復に使用した一連の製品となりました。製造を行なったのは米国内ですが、非常に軽量なため、オーストラリアへの空輸コストも安価でした」。
計 700 点に及ぶこのソリューションは、チーム 2 名と高所作業車 1 台を使って 9 日半で簡単に設置でき、プロジェクトは期限前に完了。Newmont は約 600 万豪ドル (およそ 5 億円) を節約できた。プロジェクトの実地検証の結果は、その数カ月後に「カルグーリーの大規模な嵐」という、不吉な件名のメールで届けられることになった。アウトバックを進んだ強烈な降水セルが、コミュニティ内の多数の構造物に損害を与えたのだが、メールに添付されていたのは、嵐の中に力強くそびえ立つ Advantic の構造物の写真だった。その本文には「おめでとう、最大負荷の試験に合格です」とあった。
この材料は、クリーヴランド・メトロパークス動物園が Advantic にアプローチした、ゴリラ用檻の修復でも検証された。新たにやってくるゴリラを収容し、また全ての動物により大きな空間を提供するため、Advantic はゴリラ用の檻 Gorilla Chute をデザインした。Gorilla Chute は、ゴリラが自分の居住空間の全方向を見渡せる高架式トンネルだ。この場合、ゴリラと周辺の動物の間に使うのは、鋼製より複合材料製の梁が適切だった。
Advantic で CAD エンジニアリング テクニシャンを務めるルーク・シドラス氏は「鉄骨は溶接の際に有毒なガスが生じ、設置時の騒音もひどいし、概して腐食性の高い環境となります」と話す。「梁は動物園に搬入する前に、弊社の倉庫内で切断、穿孔できました。これが、ゴリラの移送に必要だが動物のストレスの原因となるダウンタイムを大幅に削減します。とても楽しいプロジェクトでしたし、皆にとって極めて優れた結果が得られました」。
こうした成功の数々が Advantic の、ルーチンへの固執により発展とテクノロジーの導入に時間がかかっている建設業界への進出を後押ししており、Advantic は十分理解の深まった手段や方法でプロジェクトを完了させている。だがドゥーディキャン氏も指摘する通り、オーナーや施工会社、エンジニアにとって新材料はリスクであり、彼らのリスク許容度を信頼によってどう高めるかは、チームの力量にかかっている。Advantic は、現場とオハイオ州の事務所でスタッフが臨機応変に図面変更へ対処し、全ての変更がリアルタイムで反映されるよう Autodesk Fusion 360 を活用している。「プロジェクトのデリバリー プロセスの最適化に役立っています」と、ドゥーディキャン氏。「結局のところ、それが顧客の信頼へとつながり、それこそが最も必要なことです」。
聞きなれない建築材料を受け入れてもらうためにも、信頼が重要だ。Advantic の材料の強度と性能は、従来の材料よりずっと優れている。「コンクリート材料と同レベルの強度ながら 50% や 60%、場合によっては 75% も軽量化できます」と、ドゥーディキャン氏。「驚くほど軽量なコンクリートは、建設に夢のような可能性をもたらします。建設コストの多くは、材料そのものでなく、その材料の現場への運搬と安全な設置に関連するものだからです」。
成型ポリマーは Advantic のコンクリート代替材料の中でも最も軽量なもので、大抵の場合、コストが高く危険な高所作業用機器を使わずに扱うことができる。Advantic はまた、独自のポリマー コンクリート調合も開発している。これらは成型ポリマーよりも重く、アルカリ腐食に強く透水の問題がないため、地下公共設備や共同溝などに使用される。「こうしたコンクリートと鋼の代替となる複合材料により、ビルダーやエンジニアが使用できるツールキットが大きく拡張します」と、ニールセン氏。
Advantic の材料に初めて遭遇するビルダーが懸念を抱くかもしれないことには、ドゥーディキャン氏も同意する。「それでも、“これは素晴らしい! 肩に乗せて運べるなんて”とか“これまでの材料に比べて 3 倍、5 倍、いや 10 倍も速く設置できる”といった鉄筋工からのフィードバックが、私たちは正しい道に進んでいることを示しています」と、ドゥーディキャン氏。
その道は、新材料への熱意で作られている。伝統にとらわれた業界において、それは不可能とも思えるような業績だ。「複合材料を取り入れて建設業界に変化をもたらす上で、とても興味深いのは、この業界の人々は飲み込みが非常に速いということです。鋼やコンクリート、木材など、従来のツールキットに慣れ親しんでいるのにもかかわらず」と、ニールセン氏。「この価値が、これほど早く評価されるのを目の当たりにできるのは、本当に嬉しいことですね」。