Skip to main content

土木エンジニアと建築家の良好な関係が、意見の不一致を創造性の誘因に

土木エンジニアと建築家の関係 アヤ ナパ マリーナ

優れた土木工学は、そのことが常に明白とは限らないが、完璧な建築設計と同様に、また場合によってはそれ以上に重要なものだ。ビルとインフラの成功において土木エンジニアと建築家の関係が非常に重要なのは、それが理由だ。SmithGroupJJR でデザイン主任を務めるビル・アッシュ氏は、「美しいビルでも雨水が逆流するようなら、それは失敗です」と言う。

土木工学と建築は大きく異なる分野であり、両者のコラボレーションが常にスムーズであるとは言えない。土木エンジニアは一般的にリニアなプロセスに慣れており、そのプロセス内で予測を行って決断を下し、解決策を提案する。だが建築家と作業する際には、このプロセスがジグザグになりがちだ。

土木エンジニアと建築家の関係 1001 Woodward Plaza 
ミシガン州デトロイト市内の 1001 Woodward Plaza [提供: Jason Robinson Photography]

アッシュ氏と幾つかのプロジェクトに取り組んでいる SmithGroupJJR の土木エンジニアのジョン・クレッチマン氏は、「プロセスの特定の段階に到達してからデザインが変更されるのは、エンジニアリングの立場から言えば厳しい場合もあります」と話す。「エンジニアは変更を好まないのです」。

建築家の側からすると、デザインそのものの重要性が、土木エンジニアとの良好なコラボレーションの妨げになることもある。だが、SmithGroupJJR のように学際的な活動を行う設計事務所では、その企業文化が統合されたデザイン アプローチを促進している。

「特定の課題を他の課題に優先させないよう心がけています」と、アッシュ氏。「例えばビルの向きに関して、建築家は都市計画的な、あるいは実践的な見解から構想をスタートし、土木エンジニアは、地形学やリソースに基づいた非常にダイレクトでエレガントな、ただし建築家とは異なるアイデアを持っているかもしれません。ここで重要なのは、単に限定的なプロジェクト要件を満たすだけでなく、クリエイティブな矛盾を持つコラボレーションや、対話、提案から生まれる、より美しく総体的なソリューションです」。

クレッチマン氏は、こういった分野の違いが、より良いデザインのソリューションにつながると同意する。「初期段階で連携して取り組むことで、エンジニアは、よりクリエイティブになることを強いられます」と、クレッチマン氏。「ソリューションはすぐに思い浮かぶものでも簡単なものでもないかもしれませんが、それがプロジェクトにとって最良のソリューションです」。

では、建築家と土木エンジニアの優れたコラボレーションとはどのようなものになるだろうか? アッシュ氏に言わせれば、このコラボレーションは、その本質として、即座に特定できないものであることも多い。「両者の優れた連携は、突き詰めると、目に見えるものと見えないものの融合として現れます」。

土木エンジニアと建築家の関係 University of Colorado Denver Wellness Center
コロラド大学デンバー校ウェルネス センター [レンダリング提供: SmithGroupJJR]

「この融合が実現し、上手く機能している場合、どちらがどこでスタートし、どこで終わるのかに気付くことはありません」と、クレッチマン氏は付け加える。「完全にシームレスです。全てが一体となって機能し、エンジニアリング部分が目に付くことはないのです」。つまり、地上 (建築家の領域) と地下 (土木エンジニアの領域) が調和して機能していれば、関心は全体へと向けられる。

こうした学際的連携は、ビル プロジェクトにおいて建築がエンジニアリングへ従属することが求められる場合に、非常に重要となる。その好例が、アッシュ氏とクレッチマン氏が共同で取り組んだ、東地中海のキプロス島でのマリーナ プロジェクトだ。

「大型の国際プロジェクトであるアヤ ナパ マリーナでは、海岸線と、その海岸線のビルへの影響に関して、土木工学チームと建築チームの間で数々のコラボレーションが行われました」と、クレッチマン氏。「沿岸部のプロジェクトだったため、海面変動による洪水に備えた設計など、土木工学に関連する多くの課題がありました。初期段階における土木エンジニアと建築家の良好なコラボレーションがなければ、このプロジェクトは、陸部開発を伴ったマリーナ プロジェクトとなっていたかもしれません。それが、マリーナを包含した美しい陸部開発となったのです」。

つまり、ヨット施設とそれをサポートするインフラが、それぞれ個別の要素ではなく、まとまりのあるデザインを構成しているように見える。プロジェクトの初期段階でエンジニアに主導権を渡すことが、エンジニアリング上の不具合の防止に役立ち、また建築や外観、ユーザー エクスペリエンスをプロジェクトの重要部分にできる。こうした良好な (かつ計画段階の初期における) 連携は、大規模プロジェクトにおいてのみ有益なわけではなく、よりスケールの小さなプロジェクトでも同じように重要だ。

コロラド大学デンバー校ウェルネス センターにおける建築家チームと土木エンジニア チームの協調は、まさにその一例といえる。「注目度されたキャンパス プロジェクトでしたが、空間に限りがあり、ユーティリティの地役権が大きな障害となっていました」と、アッシュ氏。「この空間をどう活用するべきか、その解答を出すのは大変でした。土木エンジニア チームを含む地元のパートナー数社と連携し、建物の専有面積、敷地の形状、インフラの変更箇所について検討を行いました。最終的に、優秀かつ現場空間に合わせてカスタマイズされたデザインを生み出すことができました」。

土木エンジニアと建築家の関係 1001 Woodward Plaza hardscape
ミシガン州デトロイト市内の 1001 Woodward Plaza の垣根 [提供: Jason Robinson Photography]

もうひとつの例は、デトロイトのウッドワード アヴェニュー 1001 番地にある広場の改築だ。この広場は、地上に建つ高層ビルの壁を越えて広がる下部構造の上に位置している。「水漏れがあり、敷石も剥がれており、60 年代に建設されて以来ほとんど手が付けられていませんでした」と、アッシュ氏は話す。

既存の構造上にプランターとその土地の景観を組み込み、排水に対処し、全く新しい防水システムをデザインするという技術上の複雑さが、連携の必要性を増幅させた。「これが単なる雨漏りの修理以上のものだと理解する、先見の明を持ったクライアントのおかげで、建築家と土木エンジニア、景観設計家、構造工学技術者、照明デザイナーによるチームは、陰鬱で状態の悪いブロックの垣根を活気ある公共空間へと変容させられました」と、アッシュ氏。

土木エンジニアと建築家は、外観に関する技術上のやり取りをする関係だと捉えられているが、実際にはそれ以上のものだ。両分野間の真のコラボレーションは、プロジェクトの外観と経験的側面の価値を高める。地下の全システムが正しく機能すれば、それはエンドユーザーにとって目に付かないものとなるのだ。

これはつまり、土木エンジニアが陰の英雄であるように思えることがあっても、優れたエンジニアリングなしには完璧なデザインも無意味なものとなることを建築家は理解していることを意味している。建築家とエンジニアの間で、そのときどきに生まれる熱い議論こそが、プロジェクトを本当の成功へと導くものなのかもしれない。

著者プロフィール

タズ・カトリは LEED 認定を受けた建築士。自身の Blooming Rock ブログやその他の刊行物で建築に関する著述も行っています。

Profile Photo of Taz Khatri - JP