サーキュラー デザインによりRoyal BAMが全材料をリサイクル
SF の黄金期に書かれたトム・ゴドウィンの名作「冷たい方程式」(The Cold Equations) には、遠く離れた惑星へ向かう緊急任務に就いた宇宙船が登場する。その任務を成功させるため、移動時間と酸素の残量との“冷たい方程式”により、若い密航者は船外の冷たく空虚な空間へ放棄されることになる。このストーリーは、その容赦ない論理があらゆる世代のエンジニアに影響を与えており、とりわけエンジニアは、生命が関わる決断においては現実的な判断をせざるを得ないことを示した。
あの物語が書かれてから 50 年が経過した今、多くの人が地球という惑星自体が資源に限りのある、「冷たい方程式」の必要な宇宙船だと考えている。乗船者全員を生還させるつもりなら、適切な管理が必要な宇宙船だ。土木エンジニアたちは、この見解に特に影響を受けている。彼らがデザインするインフラや都市は、利用可能な地球の資源の大半を使用するからだ。
「世界レベルで見れば、全世界の一次エネルギーの 75% が都市で消費され、その二酸化炭素排出量は地球全体の 70% を占めています」 — Nitesh Magdani
デザイン/エンジニアリング事務所 Arup とヨーロッパの建設グループ Royal BAM Group によるレポート「Circular Business Models for the Built Environment (英文PDF)」は「建築環境の建設、運用に、英国内の全材料の 60% が消費されている」としている。
レポートの共同執筆者であり、BAM のサステナビリティ部門グループ ディレクター、ニテッシュ・マグダニ氏は「もちろん、これは英国に限ったことではありません」と話す。「世界レベルで見れば、全世界の一次エネルギーの 75% が都市で消費され、その二酸化炭素排出量は地球全体の 70 %を占めています。ヨーロッパが現在の生活スタイルを維持するためだけでも、惑星 2 つか 3 つ分の資源が必要です。炭酸飲料のボトルやその他の消費財のサーキュラー ビジネス モデルに取り組む優良企業は多数存在しますが、デザイナーや協力会社がより効率的な建物を建設し始めない限り、そうした取り組みもあまり意味を成しません」。
サーキュラー エコノミーの実現には、サーキュラー ビジネス モデル (CBM) 製品 (この場合は建物) のライフサイクル全体の考慮と応用が不可欠だ。Ellen MacArthur Foundation によれば、サーキュラー エコノミーはデザインによる回復力と再生力を持ち、製品とサービスを再定義してムダを省きつつ、負の影響を最小限に抑えることを目標としている。サーキュラー エコノミーの実現には、現行の材料回収システムを刷新しつつ、再生可能エネルギー資源にコミットする必要がある。建設業界においては、マグダニ氏のレポートが述べる通り、デザイン、使用、回収の CBM が最も重要だ。
サーキュラー デザインは、その概念はシンプルだが、それを建築物に応用することは極めて難しい。「膨大なデータが必要となります」と、マグダニ氏。「初期使用の後、長い年月が経過した建材のデータのキャプチャ、価値の創出については、まだまだ多くを学ぶ必要があります。建築分野では、こうした情報は建築物のライフサイクル内にほとんどキャプチャされていないことが問題です。情報の無い材料は、ゴミなのです」。
幸いなことに、こうしたデータのキャプチャを始め、建材の有用性と価値を拡大させる手法で建設しようという意欲は十分に存在している。サステナビリティの利点だけでなく、潜在的な経済利益も圧倒的だ。前述のレポートによれば、建材とデザインの効率性と価値を把握することで、今後 10 年間で世界経済を 4% 向上させられる。
「特定の材料が不足し、それらが高騰することは分かっています」と、マグダニ氏。「ビジネスとして生き残るつもりであれば、材料は初期使用後も建物、システム、構成要素、そして再び材料として、価値あるものとして存在し続ける資産だと捉える必要があります」。
マグダニ氏は業務の一環として、さまざまな手法による建築物への CBM の応用について研究している。BAM は、エンジニアリング、ファシリティ マネジメント、官民パートナーシップ分野で活動しており、サーキュラー デザインのアイデアの現実性を検証するのにうってつけだ。建築業界はまさに BAM の研究施設のようなものだ。
「建築物は耐用年数が長いため、実験を行うのは困難です」と、マグダニ氏。「それを迅速化するため、我々は Arup、Frener & Reifer、The Built Environment Trust とのコラボレーションによりロンドンに Circular House を設計、建設しました。この建物を意図的に短期間で解体し、材料や構成要素を再利用できるかどうかを検証します。メーカーには、材料をしばらくの間「借用」して、その後返還するつもりだと説明しました。こうして私たちはこの旅をスタートさせました。建物の解体はつつがなく完了しており、メーカーに材料を返却する前に、材料と構成要素を他のプロジェクトに再利用してコンセプトを検証する予定ですが、既に多くの知識を得ることができました」。
BAM が共同で建設した、もうひとつのサーキュラー ビルディングが Circl だ。これはアムステルダムの ABN Amro 本社に建設されたパビリオンで、簡単に解体できるよう特別な設計が行われており、取り外し可能な構成要素、再生材料や再生可能材料が多用されている。
だが、所有権の変遷は信頼性の高い建設データの収集への障壁となる。「これまで、サステナブルだと考える建物を多数デザインしてきましたが、そうした建物が最終的に埋め立てゴミとならないという保証は、残念ながらありません」と、マグダニ氏。「問題は、その建物や資産の所有者が 50 年後や 100 年後に誰になるのか、デザイナーには分からないことです。もどかしいですね」。
建築物のデザイナーや施工会社にとって解決策のひとつは、その新規施設のオーナー代理として運営を担当することだ。「こうすることで、建設に使用されたビルディング インフォメーション モデルを運用にも活用でき、全ての資産情報を最新の状態に維持して、解体時まで建築物と一緒にしておけます」と、マグダニ氏。「これは資産を義務だと考える業界より、むしろ資産の所有者に価値をもたらします」。
だが基本的な建材や設備も、市場が存在しさえすれば、そのほとんどに価値がある。「現在取り組んでいるプロジェクトに、今後 10 年間オフィス空間を必要とするエンジニアリング会社のためのものがあり、この会社は物件に対して賃借人として固定額の家賃を支払います」と、マグダニ氏。「デザインによる我々の回答は、既存の倉庫を再利用するというものでした。屋根のたる木やキュービクル、配管などの中古材料も調達できました。このアイデアはうまくいきましたが、投資家による投資が 10 年後の建物の解体時にも十分な価値を持つことを納得させる必要がありました。これにはマーケットプレイスが役立ちます」。
そのため、BAM は建築システム、製品、材料の供給と転売をより実用的なものにするオンライン マーケットプレイスを展開中だ。マグダニ氏は材料については、解体業者がその役割を再定義する必要があるとも考えている。「実際のところ、彼らは都市の資源採鉱者です」と、マグダニ氏。「建物を解体する際、彼らは建物や都市へ還元できる価値を持つ資源を回収しているのです。これは素晴らしい機会です」。
サーキュラー ビジネス モデルを建設業界に応用することは、確実に破壊的変化をもたらすだろうが、その実行は、経済分野全体に好ましい変化を誘発させる可能性を有している。本当に地球がリソースに限りのある宇宙船なのだとしたら、サーキュラー エコノミーを取り入れることは、全ての乗客を不自由なく生存させるための最良の手段かもしれない。