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プロペラの無い発電機でチャレナジーが目指すエネルギーシフト

チャレナジー

これまで災害でしかなかった台風の、膨大な風力エネルギーの活用。その実現に向け、チャレナジーは「プロペラの無い風力発電機」の開発に挑戦している。

2020年の実用化を目指し、沖縄県南城市のテストフィールドに設置されたチャレナジーの実証機は、一般的なプロペラでなく、自転する円筒3本を搭載。その上下が正三角形のフレームで固定され、全体が垂直軸の周りを回転して発電するようデザインされている。このユニークな形状の発電機は、台風下でも回転数をコントロールして発電を継続でき、ブレーキを使用せずに停止させることも可能。さらにバードストライクや騒音の問題も回避できるという。

沖縄県南城市に設置された1kW実証機 [提供: チャレナジー]

2011年3月の東日本大震災に端を発した原発事故は、国のエネルギー政策を一変させると同時に、国民ひとりひとりがエネルギーとの関わり方を再考する機会を生んだ。当時、大手電機メーカーのエンジニアだった清水敦史氏も事故に大きなショックを受け、この国と、世界のエネルギーに対する危機感を覚える。そして、自らがエンジニアとして貢献できることとして選んだのが、台風をもエネルギー源に変える、画期的な風力発電機の開発だった。

「風力発電機はヨーロッパで発明され、まるで恐竜のように大型化する方向で進化してきましたが、基本的な構造はあまり変わっていません」と、清水氏。「同じ時代の発明であるガソリン自動車や飛行機、蓄音機などは、どれもそのままの形では残っていない。一方で、日本は風力発電のポテンシャルが高いにも関わらず、風が不安定な上、台風も発生する過酷な環境であることが、風力発電の普及を妨げる一因になっています。そこに、まだまだイノベーションの余地があると感じました」。

原発事故の直後から風力発電に関する文献や特許資料を読み漁っていたという清水氏は、「マグナス効果」に注目する。清水氏はまだ実用化されていない、垂直軸とマグナス方式の組み合わせに絞り込み、自宅で扇風機や発泡スチロールの棒を使った実験を開始。わずか1カ月で、進むべき方向性を見定めたという。

マグナス方式と垂直軸によるイノベーション

「日本の過酷な環境、特に台風に耐えられる風車にするためには、2つの対策が必要だと考えました。まず、一般的な風力発電機に使用されているプロペラ風車では、強い風で回りすぎて破壊されたり燃えたりという問題が起こりうる。プロペラがある限り、こうしたリスクは無くせないのではないかと考え、プロペラの無い風力発電機の実現方法を考えるようになりました。もうひとつは、乱流への対策です。プロペラ風車は向きを風の方向に合わせる必要がありますが、垂直軸風車であれば風の方向に影響を受けない。そこで、プロペラが不要なマグナス方式と垂直軸風車を組み合わせることを考えつきました」。

風の向きに対してマグナス力が垂直方向に働き、円筒の自転数でパワーを制御可能

垂直軸型は風向変化に影響を受けず、低重心化が可能

この「マグナス効果」とは、気流や水流の中に置かれた円柱や球に回転を与えると、その流れに対して垂直方向の揚力が働く現象。野球やサッカー、テニスなどボールに回転を加えて軌道を変化させることを想像すると分りやすい。清水氏の考案した「垂直軸マグナス方式」では、風車上に支持された円筒をモーターで駆動することでマグナス効果を発生させ、風車全体を回転させる。円筒の回転数を調整することで風車全体の回転をコントロールでき、強風で回りすぎて壊れてしまうような問題も回避できるという。「円筒の回転を止めてしまえばマグナス効果がゼロになるので、いざという時には確実に停止できます。また、円筒の回転数は風速に応じて瞬時に調整できるので、風速変化が激しい台風下でも安定発電できます」。

ただし、垂直軸型マグナス風力発電機には、風車の風上側と風下側で同じ方向にマグナス効果が働くため、そのままでは回転力が相殺されてしまうという根本的な問題がある。これに対応するため既に幾つかの企業が、風下側の回転翼を隠す、回転翼の自転方向を逆にするなどの特許を申請しているが、いずれも実用化には至っていない。

清水氏が最初に考案したのは、2本の逆回転する円筒を組み合わせて使うことで、風上側でも風下側でも同じ向きの回転力を得る方式。2011年5月には生まれて初めて特許を書き、6月には弁理士事務所へ持って行って、7月には特許を申請。垂直軸型マグナス式風力発電機の実現に向けて驚くほどのスピードで動き出し、2013年には待望の特許を取得する。

2011年に製作された試作機 [提供: チャレナジー]

起業への風を受ける

この垂直軸型マグナス風力発電機のアイデアは、2014年3月のテックプラングランプリで最優秀賞を獲得するとともに、重要な出会いを生み出す。フリーフォール型深海探査機「江戸っ子1号プロジェクト」など意欲的なものづくりで知られる株式会社浜野製作所の代表取締役、浜野慶一氏が審査員を務めており、その縁で同社が運営するものづくりの総合支援施設、ガレージスミダへ入居することとなったのだ。

風力発電機の開発には数千万円規模の予算が必要となるため、清水氏は「あらゆる手を使ってお金を集めようと考えました」と語る。「恵まれていたのは、NEDO (国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構) の起業家支援事業の審査に通って、支援を受けられたこと。それ以外にもクラウドファンディングや借り入れなど、あらゆる資金調達をしながら開発を進めていました」。

また、オートデスクが日本国内で展開していた「クリーンテックパートナープログラム」(現在のオートデスク起業家サポートプログラム)を活用。「Inventorは使い易いソフトだし、追加されたシミュレーション機能もすごく便利です。構造解析や共振周波数なども、かなり精度良くできていました」。

だが、会社設立後間もなく、特許を取得した方式では十分な発電効率を得られないことが判明。そこでさまざまな試行錯誤を繰り返した結果、大幅に効率を向上させた新たな方式を、半ば偶然に発見した。このアイデアは現在国際特許出願中のため詳細は公開されていないが、昨年末には直径1.5mの試験機で風洞実験が行われた。

実用化と新たなチャレンジ

現在は、この実験をもとに製作され、沖縄県南城市に設置した1kW実証機で発電効率などを検証中。台風下での発電にも成功した。2020年の東京オリンピックまでには、開発中の10kW発電機の実用化を目指している。「病院や学校、避難所、通信設備などの電源としては、最低限10kW程度が必要。風車は出力 = サイズなので、どんどん大型化していこうとしています。10kW機は、単純計算で3倍程度、直径10mくらいのサイズになるので、我々にとってもかなりのチャレンジになります。東京タワーやオリンピック会場に設置されて、世界の人に知ってもらえたら理想的ですね」。

ただし、それも目的に向かうひとつのマイルストーンに過ぎない。「荷重制限の厳しいビルの上などに載せるのは難しいので、台風がよく通過する場所に並べるウィンドファームのようにしたいと考えています。例えば日本同様に島国で台風の発生数も多いフィリピンは、風力発電の適地でもあり、大きなマーケットになると思います。将来的には台風の莫大なエネルギーから発電し、海水を電気分解することで水素を作って貯められるようにしたいですね。台風やハリケーン、サイクロンのハザードマップが、10年後には水素社会の一端を担うエネルギーマップになっているかもしれません」。

チャレナジー 清水敦史
株式会社チャレナジー 代表取締役CEO 清水敦史氏

「風力発電は私のライフワークになると思っています」と、清水氏。「プロペラ風車が100年かかった大型化を、私たちは今後20年のうちに実現していく。無謀な挑戦かもしれませんが、だからこそ、チャレンジするという意味を込めて、会社の名前を“チャレナジー”にしたのです」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan、「Design & Make with Autodesk」日本版エディター。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP