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個人の闘いから、より優れた万人向けの人工乳房を生み出した企業

人工乳房 フェイ・コベットcobbett ultimaker 2 3d プリンター
myReflectionの3DプリンターUltimaker 2の隣で写真に収まる治療期間中のフェイ・コベット氏 [提供: myReflection]

フェイ・コベット氏は2015年に乳がんと診断され、切除後に再建術を受けない決断をする。だが、その代案となる、装着感が悪くカスタマイズされていないシリコン ブラパッドには苦労させられることになった。

パートナーのティム・カー氏は、その状況を彼女のために改善したいと考える。自身の問題解決能力と3Dプリントの経験を生かして快適かつ低価格な人工乳房を生み出すと、2019年2 月にはニュージーランドを拠点とするmyReflectionを創業した。

人工乳房
完成して製造された人工乳房 [提供: myReflection]

「myReflectionが目指しているのは、鏡の前の人物と、その人が心に思い描く自分自身の姿を一致させることです」と、カー氏は話す。これは社名のインスピレーションであり、ビジョンともなった、ユーザーである女性自身の身体を反映して、完全にフィットするオーダーメードの人工乳房だ。

myReflectionのCTO兼研究開発部門統括のジェーソン・バーネット氏は「既成品ではなく、その人向けに、その人自身を元にデザインされたものであれば、使用する人の一部となることが分かりました」と話す。

両氏はコベット氏の経験から学び、その時点での選択肢は装着するには重すぎ、また裏面がフラットなので神経痛の原因となり、身体のあちこちに圧迫感を与えるという結論に達した。こうした問題を解決するため、身体との間に隙間が生じたり、身体に圧迫感を感じさせることのない、身体にぴったりフィットするようデザインされたソフトなインナーコア、ISO認証を受けた肌に安全なシリコン製アウターシェルで構成された、軽量なカスタムフィット モデルが開発される。

「この製品は切除部分の起伏にフィットし、身体の表面にかかる圧力も均一です」と、バーネット氏。「各ユーザーに合わせたサイズであり、装着時は実際の身体と見分けがつきません」。

より低価格を実現するため、myReflectionは3Dプリントを採用。「迅速でコスト効率の高い製造に、最も適したテクノロジーです」と、バーネット氏。「自動化と、カスタマイズされたパーツを従来の大量生産の価格で製造する能力とを組み合わせる必要があります」。

その製作は、乳房切除術後の女性の胸壁と胴体部分の画像を数百も撮影する3Dスキャン プロセスから始まった。当初はハイエンドの3Dスキャニング システムを使用したが、これではプロセスのスピードが低下し、コストも余分にかかると判明。

人工乳房 工房
3台のUltimaker 3Dプリンターが設置されたmyReflectionの工房のひとつ [提供: myReflection]

「一般的なハンドヘルド型スキャナーによる高品質のスキャン画像は必要ありませんでした」と、バーネット氏。「フォトグラメトリーで同じ成果が得られました」。

フォトグラメトリーとAutodesk Meshmixerを使い、画像を組み合わせて胴体の3Dモデルを構築。その後、デジタル モデルから3Dプリンターで型を作成して、カスタムの人工乳房を製造する。製造開始前に3Dプリント製の型でテストフィッティングを行い、適切な形状かどうか、変更箇所はないかを確認する。

このプロセスを完成させるには、1年以上にわたる研究開発と業界の専門家による助言、冷蔵庫サイズの箱いっぱいのプロトタイプと試作品、多くの試行錯誤が必要だった。「プロセスの全ステップで困難を経験しました」と、バーネット氏。「適切な製品を製作できるようになるまでに、相当の時間と微調整が必要でした」。

だが数々の失敗にもチームはひるまず、最良の結果を得るために努力を重ねた。この場合、「まあまあ」の結果では十分とは言えなかったのだ。「最終製品の生産には3つの異なるプロセスを要しました」と、バーネット氏。「最も低価格かつ迅速で、信頼性の高い結果を生み出す方法が見つかるまで比較テストを繰り返しました。仕様の多くで、まずは検証して結果を確認する必要がありました。単に答えを知るのではなく、経験から学んでいったのです」。

チームの努力は、これらの課題の克服という形で報われた。「始まりはフェイを助けることでした」と、バーネット氏。「でも、この製品が彼女に与えたプラスの効果を目の当たりにして、これは全ての人のために取り組むべきだと気付いたのです」。

2019年2月に正式発表されたmyReflectionには圧倒的な反響が寄せられた。「カスタム人工乳房のリクエストが殺到しています」と、カー氏。「最初の1カ月で300名もの女性から問い合わせを受けました。その需要に応じるため規模の拡大に注力してきました」。

人工乳房 フェイ・コベット
myReflection の立ち上げ記念イベントでラッピングされた人工乳房を披露するフェイ・コベット氏 [提供: myReflection]

myReflectionは現在、4年間のサブスクリプション サービスを613 NZドル (約43,600円) で提供している。クライアントに対象資格があれば、ニュージーランドの人工乳房補助金を利用することで、その費用全額をカバーできる。このサブスクリプションには、3Dスキャン1回と人工乳房4点 (サブスクリプション開始時に2点が提供され、4年間の任意の時点でさらに2点が提供される) が含まれている。サブスクリプション期間内であれば、追加料金を支払うことで再スキャンを受け、身体の変化に合わせて調整することも可能だ。

myReflectionは、この人工乳房を来年はオーストラリア、カナダ、イギリスも販売予定で、いずれは米国での展開も計画している。また、このテクノロジーを義肢関節結合部の向上から人工呼吸器の新設計まで、別のものに応用する検討も行なっている。

「我々が開発したこのテクノロジーは、転用が可能です」と、バーネット氏。「人体と物質のインターフェースに応用でき、開発した3Dスキャン技術、3Dプリント手法、材料科学を活用できます」。

myReflectionが、この技術以上に重視するのが、女性の生活の向上だ。「myReflectionが与えることのできる、より重大な影響は、カスタム人工乳房を手に入れた女性に感じられる自己意識の変化です。得られるのはBカップやCカップではなく、その人ならではの (you) カップなのです」と、カー氏。

「女性が人工乳房と個人的な強いつながりを築き、自分の身体の一部だと感じられるようになるのを目にしてきました」と、バーネット氏は付け加える。「こうした手応えこそが、この取り組みの、まさに原動力となっています」。

著者プロフィール

リナ・ダイアン・カバラーは科学、テクノロジー、社会、環境の交点を取材するニュージーランド在住のライター。

Profile Photo of Rina Diane Caballar - JP