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シミュレーションと手作業で果敢に挑戦する変形ロボットの制作

J-deite RIDE ロボット 制作
J-deite RIDE [提供: J-deite RIDE LLP]

電気で走る鉄道社会となった2050年の世界で、経済の中心を担う鉄道王が造り上げたロボットによる勇者特急隊の活躍を描いたロボットアニメ「勇者特急マイトガイン」。そのリーダーであるマイトガインに乗って操縦したいという幼い頃の気持ちが、現在もBrave Roboticsでロボット制作を行う石田賢司氏の、開発の原動力となっている。

アニメや実写によるTV番組や映画などの映像に受け、巨大なロボットを操縦することを想像したり、トランスフォーマーなどの変形ロボットを手にしたりする人は多い。石田氏も、そうしたロボットに魅せられたひとりだが、大きく異なるのは、それを実際に作り上げることに情熱を燃やし続けているところだ。

独学でロボット技術を学ぶ一方で、ロボティクス学科のある大学へ進んだ氏は、21 歳のときに、小型二足歩行ロボットを作成。翌年には、早くも人型から自動車型へと変形できるロボットを完成させている。

「大学時代から人型で変形するロボットを作っていましたが、大学には評価されないわけですよ」と、氏は笑う。「学問ではないし、それで研究になるわけではない。だから大学の真面目なロボットを作りながら、変形ロボットはこっそり一人でやっていました」。

その後、ロボットベンチャーや自動車関係の仕事に従事して経験を積む一方で、個人事業として小型変形ロボットの開発を推進。1/12スケールで巨大変形ロボットの制作を継続し、開発中の7号機の機体が変形する様子を収めたビデオを2012年にYouTubeで公開すると、世界から注目を集め、実に250万回以上もの再生回数を記録した。

その制作スタイルもユニークで、設計から制作までをほぼ全てひとりで実行し、メカ設計だけでなく電気回路、プログラミングまでを幅広く手がけている。2014年、株式会社BRAVE ROBOTICSを設立した後は主に自社の工場で開発を進め、全高1.3m、1/4スケールの変形ロボットJ-deite Quarter (ジェイダイト クォーター)を完成させている。

会社の設立と新規事業開発に向けたLLP

翌2015年には、全高約4mに達するロボット制作に着手する。翌年には上位モデルとなる乗用人型変形ロボットJ-deite RIDE (ジェイダイト ライド) の開発のため、ソフトウェア企業アスラテック、遊戯機械や、舞台機構、昇降機、特殊機構のメーカーである三精テクノロジーズとともにLLPを設立。BRAVE ROBOTICSがハードウェア全般を担当する。

このJ-deite RIDEは二足歩行および車輪走行で移動し、両腕による作業が可能なロボットモードと、車輪走行で移動するビークルモードに変形可能。メカデザインの協力には「機動戦士ガンダム」や「ヤッターマン」「勇者シリーズ」など、数々のアニメーションでロボットのデザインを担当してきた大河原邦男氏を迎えて、急ピッチで開発が進められることになった。

もちろん、ビジネスとして成立させるためには用途の設定も重要だ。「当初は3mくらいの高さのものを考えていたんですが、協力会社のうち1社がジェットコースターなどを作っている会社ということもあり、人が乗れるロボットということでニュース性を上げ、将来的にエンタテイメント向けに販売できることを目指すことにしました」。

J-deite RIDEには最大2名が搭乗して操作可能 [提供: J-deite RIDE LLP]

車型の状態で走行が可能 [提供: J-deite RIDE LLP]

J-deite RIDEの手の平部分のクローズアップ [提供: J-deite RIDE LLP]

「設計は (Autodesk) Inventor で行なっていますが、ネジの頭まで全部モデリングして入れておかないと、あとで干渉したりする。そのため、部品点数も何万点というレベルになっています。完成形も人型と自動車の2種類なので、同じロボットに対してアセンブリのファイルも常に2つあることになります」。

また、シミュレーションも非常に重要だという。「小さいものだと、いきなり作って動かして、壊れたら直せばいいという進め方ができますが、人が乗るサイズものでは、人を乗せて壊れると大事故になる可能性もあります。どの程度の負荷をかけても壊れないか、その上でどういう動きをしても大丈夫なのかを事前に確認するため、その分、時間もかかってしまいます」。

2017年度の完成を目指して開発を進め、発表は2018年度の始めになった。スケジュールに余裕がなく、順番に作っていくこともできなかったという。「全体の設計ができてから作り始めるのでなく、設計と製造が同時進行しました。ロボットモードの安全確保には腰から下が重要なので、まずは下半身の強度計算を優先して進めて、腰から下だけを先に作り始めました」。

「ただ、その時点では上半身の内部構造は全く形が決まっていませんでした」と、石田氏は続ける。「外装はFRPで作ったんですが、その納期が長いので、中の形が決まっていない段階で外側だけ形を決めなければいけませんでした。それで、たぶん入るだろうという寸法を決めて業者に出し、それに辻褄の合った中身を頑張って作るという順番になってしまいました。最終的には、それで辻褄を合わせられたので良かったのですが」

重くて大きいロボットの制作で、とりわけ苦労したのが組み立てだという。「ほぼ自分一人で、クレーンで持ち上げながら組み上げました。耐荷重1tくらいのクレーンは市販されているんですが、今回の機体はそれ以上の重さなので、門型クレーンも特注で作ってもらいました」。

より進んだロボット制作に向けて

こうして完成した機体は、国内でお披露目された後、2018年11月、米国フロリダ州オーランドで開催された「IAAPA Attractions Expo 2018」に展示された。三精テクノロジーズ株式会社は、アミューズメントパーク向けの変形ロボット型遊戯機械の事業化を目指しており、多数の公認バイヤーに向けたデモンストレーションが行われたという。

「機体自体が1.7tぐらいあって、これを乗せるための鉄のパレットを専用で作って、パレットごと積んだり送ったりするようにしました。そのパレットも1t程度の重さがあり、さらにパレットごと車体を入れる木箱があるので、総重量は3tくらいになります。船で片道3カ月近くかけて移動して、幸い現地では問題なく動作しました」。

「全長約4mのJ-deite RIDEを作ってわかったのは、形が同じであれば、いま手に持っているサイズのものと、だいたい挙動が同じということです。小型モデルを作り込めば、リアルサイズも動く。当初は、大きさも違って質量も違うから、慣性の効き方が違うので違った動きになると予想していたんですが、意外に同じ動きになりましたね」。

BRAVE ROBOTICS 石田 賢司
株式会社 BRAVE ROBOTICS代表取締役の石田 賢司氏と、現在制作中のロボットの脚部

その一方で、ロボット開発で培ったさまざまな要素は、別のビジネスとして発展させることを目指している。過去にも受託開発という形で、タカラトミーのトランスフォーマーのキャラクターをモチーフにした自動変形ロボットBumblebee Quarter や Bumblebee 20などのハードウェア製作に協力しているが、今後はさらに要素技術をビジネスにつなげることも考えているという。

「J-deite RIDEは実用とは遠いコンセプトモデルであり、自走できても自動車としての登録は難しいのですが、調べた限り自動車としてナンバープレートを取得できる可能性はゼロではなく、また自動車ではなく大型特殊車両などの車両として登録できる可能性は高いと考えます。何らかのナンバープレートがついて公道が走れれば、スピードは遅いけれど変形できる高級車として市販できると考えています」。

「J-deite RIDEは弊社で開発した電気自動車並みの内蔵バッテリーで動作しています。これを応用して屋外で動く大きな実用的なものをやってみたい。今後の人口減少に伴う労働力減少を補うために、建設現場や農作業現場などで使える大型の作業用ロボットにも活動分野を積極的に拡大していきたいと考えています」。

著者プロフィール

オートデスクのInternational Content Manager for APAC & Japan、「Design & Make with Autodesk」日本版エディター。

Profile Photo of Yasuo Matsunaka - JP