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AI x DESIGN: 人工知能でデザインの世界は進化するか

AIに関する話題を、毎日のように見聞きするようになった。ロボットに搭載されることで人間の仕事が奪われるのではないか、やがてAIが反乱を起こすのではないかという心配も、より現実味を持って語られるようになってきている。

AIに関しては消費者の視点から語られることが多いが、「作り手」側のクリエイティブな視点で見ると、どんなことが実現するのだろうか? 先日、ゲームやプロダクト、建築のプロダクトデザインの世界における最先端のクリエイターを招いた「AI x DESIGNトークイベント」のパネルディスカッションでモデレーターを務める機会があったので、その際に語られた興味深い話の一部を、ここで紹介しよう。

まず広義で使われるAI (Artificial Intelligence) について整理しておくと、これはコンピューター内で人工的に人間と同様の知能を実現しようというもので、1950年代に誕生した用語だ。2度のブームと、それに続く冬の時代を経験しながら、その後も開発が続けられている。2016年3月、DeepMindのAlphaGoが最強レベルのプロ囲碁棋士に勝利することで、それ以降再び大きな注目を集めるようになった。機械学習の一手法であるディープラーニングの発明や、インターネット普及で収集が容易になったビッグデータの活用などが起こり、現在は第三次AIブームと呼ばれている。

このAIをどう使うかを考えるのは人間だが、では作り手であるクリエイターたちは、AIについてどう考えているのだろうか?

「FINAL FANTASY XV」

「FINAL FANTASY XV」

「FINAL FANTASY XV」

クリエイティブな世界とAIの関係は、決して細いものではない。例えば株式会社スクウェア・エニックスのリードAIリサーチャー、三宅陽一郎氏はデジタルゲームの人工知能を15年前から作っているという。デジタルゲームではAIを活用して、ユーザーの状況に応じてモンスターの出現する数を変化させたり、プレイヤーを助けたり、キャラクターの目線や顔の向きなど意識の向かう方向を変えたり、といったことが行なわれている。

「最近は、自動生成で森全体を、さらに「No Man’s Sky」(Hello Games、SIE, 2016) では惑星全体を作ったり、ファンタジーゲームではダンジョンを自動生成したり。AIがいろんなマップを自動的に作って、アダプティブにゲームが生成されるという作り方になってきています」と三宅氏。

AIが最も早く活用されたジャンルの一つは、間違いなくゲームだろう。最新のテクノロジーを積極的に導入しており、プレイヤーのエクスペリエンスを向上させることに貪欲だ。

noiz が手がけた Flipmata は台北の大学の新築棟に恒久的に設置されたパブリックアート [COLLABORATOR: Kazuhiro Jo + why-ixd, PHOTO CREDIT: Kyle Yu]

イベントの会場となった渋谷castは、noizがファサードとランドスケープのデザインを担当。ビルの設計は株式会社日本設計が行った [PHOTO CREDIT: 川澄・小林研二写真事務所]

BAOBAO Ginza (松屋銀座店)。独特の三角形が連続するパターンを動的なパターンに落とし込み、LEDディスプレイでの映像としてアニメーション展示した noiz によるプロジェクト [COLLABORATOR: Teppei Nomoto, PHOTO CREDIT: 高木康広]

イベント会場になったSHIBUYA CAST.のファサードや広場をはじめ、コンピュテーショナルなデザインアプローチで知られる建築事務所noizの豊田啓介氏は、「建築の世界から見ると、ゲームとかプロダクトの世界は面白いし、うらやましいと思うのは、扱える範囲が自分で定義できること」だと語る。

「設計の工程でこれまでの膨大な資料を基に“教師あり学習”をさせてもいいし、あえてディープラーニングでブラックボックス的過程がある前提で一定の与件に対して形態生成させてもいい」と、豊田氏。「建築という分野は本質的に複雑系をありとあらゆる階層に含んでしまうものなので、それを人間が意識的にデザインするという困難をどうしても伴う。十分に与件を整理する知見が溜まればAIとはむしろ相性がいい分野だと思うし、すべてを決定できないことを前提とする世界を許容できれば、マインドセットや技術プラットフォームが大きく変わる代わりに、できるようになる領域が爆発的に増えるし、これまでとは異なる領域で集合知が形成されて、何か予想を超えたものが生まれるんじゃないかっていう期待感がありますね」。

Triple Bottom Lineを主宰するプロダクトデザイナー柳澤郷司氏は、デザイナーもAIを活用すべきだと語る。「知覚心理学者のジェームズ・ギブソンが提唱した「アフォーダンス」は、デザインにおいて、人をある行為に誘導するためのヒントを示すという意味で使われてきました。しかし、それは知覚する前から存在しているものであり、それも含めてデザインしなければいけないと言われるようになっています。それは、人間の頭の中だけでは計算できない。定量化するには、似たような人格をたくさん作って皆で一斉に考える必要があり、総和が新しい認知だと考えると、デザイナーひとりだけでなくマシンも使わなきゃいけない。だからデザイナーもマシンを使って、機械学習や統計学、認知学などを、もっともっと使っていかなければいけない」。

さまざまなパーツが 3D 金属プリントされた IoT ロードバイク ORBITREC。ジョイント部分の内側はジェネレーティブデザインによるラティス構造を採用 [提供: 柳澤郷司氏]

氷の結晶の生成モデルを応用した卓上照明 Luxio [提供: 柳澤郷司氏]

チタン焼結製法を用い、内側に水面の波紋のような形状を表現することで柔らかい光を生み出す Botanical Drip [提供: 柳澤郷司氏]

イベント当日は、パネル・ディスカッションに先立ち、オートデスクの研究部門Autodesk Researchのマイケル・バーギンが、AIを活用したジェネレーティブデザインの手法を紹介。柳澤氏は既に、金属3Dプリントによるオーダーメイドのロードバイクフレームの設計などで、このテクノロジーを積極的に活用している。「競技用自転車のフレームのジョイント部分を、チタン合金の3Dプリントで作っています。強度は落とさずに軽くして、接着面積を広げるために、最終的にたどり着いたのが人間の骨の構造でした。これまで人間が行うのは不可能だった複雑な計算が、それをサポートしてくれるようなソフトを作って行えるようになった。もちろん、実地検証やテスト、実環境でのフィールドテストをする必要はありますが、その前のステップとして、新しい選択肢が出てきたなと思っています」。

AIに対しては、各クリエイターともポジティブな印象を持っている。「むっちゃ楽しいじゃん。やる前から、何怖がっているの?という感じ」と、豊田氏。「僕は、シンギュラリティみたいなことは全く信じていない。AIもいろんな分野に細分化されていて、それぞれが勝手に進化している。実社会でのAIの適応分野という系は圧倒的に複雑なんで、これが総合的に制御できて、あるシンギュラリティを超えて人類に危機をもたらすみたいなことって、たぶん摂理としてできない。楽観的に、各分野でどんどん使っていけばいい。ただ、小さな分野一つでも十分破壊的にもなりうるとも思うんですけどね」。

建築やプロダクトの世界は、物の実装(建物や製品)を伴うため法的にも安全面でも慎重に取り組むことが必要だが、決して否定的ではない。

三宅陽一郎 豊田啓介 柳澤郷司
「AI X DESIGNトークイベント」のパネラー。左から、スクウェア・エニックス 三宅陽一郎氏、Triple Bottom Line柳澤郷司氏、noiz 豊田啓介氏。

三宅氏は、これからは人間とAIの協調の時代であり、「AIがうまくアシストしたり提案したりすることで、人間のクリエイティビティをエンハンスしていく」ようになると述べる。「特にゲーム開発のようにほとんど制限のない要求は、選択肢は多くても試すことのできないまま先に進むことがあるので、AIがいろいろなケースを計算しつつ提案してくれると、すごく強力な味方になりますね」。

「建築はもともと物質的なものなので、デジタルプラットフォームに載せるには一度情報化、データ化のようなものが必要になる。街や建築のBIM化やその一環なわけですが、そのデータがいつもオープンに使える前提で、自律走行車なども常に全情報をスキャンするのではなく、リアルタイムなスキャンは最小限に既存の街並みデータと照合しながら処理することで、処理の負荷も軽減してさまざまなインタラクティブな業態が参入するプラットフォームになり得る」と、豊田氏。「例えば個別の建物のOSとしてAIが存在するとか、それらの間や交通インフラ、法規や税収などを調整する都市のAIが存在するとか、多様なスケールと分野ごとに異なるAIが混在するということになると思う」。

「筋電センサーを使った筋電義手が一気に実現しつつありますが、頭で考えるとロボットとしての義手が動くみたいなものができてくると、腕が3本だったり4本だったりも原理的に扱えて、腕の代わりに建築や車が動かせるということにもなる。じゃあ建築や都市インフラみたいな共有財産は誰がどう動かすのかという、個人の肉体や所有物と環境との境界があいまいになる現象って、たぶんそう遠くない未来に現実的な問題になる。そうすると、神のような調整機能に特化したAIに社会を調停してもらわざるをえない社会は、必然的に来ると思います」(豊田氏)。

「ゲームエンジンが人にゲームを作らせるくらいの、強力なAIが工程管理とかスケジュール管理をしてくれるといいですね」と、三宅氏。「朝会社に行くと、ツールから「今日は君、テクスチャーを3枚」みたいな指示があって、それを中心に作業していけば、みんな仲良く働ける (笑)。人間がマネジメントすると揉めることが多いですからね。いまゲーム開発は海外のいろいろなチームとも協調してやるので、そういうのも全部AIが取り仕切ってくれると楽だなと思います」。

「プロダクトを作るときには、素材や価格帯、対象者のようなフィジカルなコンテクスト、そのプロダクトの社会との関係性であるソーシャルなコンテクストの、2つの要素があります」と、柳澤氏。「そのバックグラウンドとなっているものをAIが担保できれば、新しくデザインされたものに対して社会性を載せることができるんじゃないかと思います。こういうプロセスを積んだらこういう社会性が生まれるという仮説をたくさん作って、その幾つかを利用することで、社会性を持ったデザインだと言えるようになるでしょう」。

100名を超える来場者のうち、6–7割はクリエイティブな仕事をされている方だった。御三方のAIに対するポジティブな意見を聞いて刺激を受けた様だ。予定時間を大幅にオーバーしたディスカッション後は、パネラーと個別に話をする来場者の列が途絶えることは無かった。

AIと人間が協調する世界を作り出すであろうクリエイター達が、これから何を生み出すのか。それが、さらに楽しみになった。

著者プロフィール

塩澤 豊はメカ設計者時代に 3D CAD に出会い、3Dテクノロジーに心酔し、ハードウェアからソフトウェアの世界へ転身。3D テクノロジーの民主化を目指している。

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