モジュール建築がアフォーダブル住宅不足の解消に貢献
Modular Building Institute (MBI) のトム・ハーディマン代表は、「モジュラー」とは建設の産物ではなくプロセスだと定義している。この MBI のメンバーとして、多世帯向け住宅を含むモジュラー ビルディングの製造・販売に関連する 350 以上の企業が名を連ねている。
「モジュラー ビルディングは、箱で構成された建物です」と、ハーディマン氏。「オフサイトのロケーションで材料を組み合わせて箱のような構造を作成し、その箱を現場へ搬送して組み立てます」。
では、モジュラーである理由とは? それがいま注目されているのは? 差し迫った理由のひとつに挙げられるのが、住宅価格の高騰だ。カリフォルニア大学バークレー校 Terner Center for Housing Innovation アフォーダブル住宅・都市政策部で名誉特別教授 (DP) 兼学部長のキャロル・ギャランテ氏は、米国全域で「マイホーム所有者と賃貸物件居住者の両方にとって、賃金と比較して住宅価格が極めて急激に上昇しています」と述べている。
ギャランテ氏は、低所得層における賃金と家賃の隔たりが、かつてないほど深刻な住宅確保難を生み出していると言う。全米低所得者向け住宅連合 (National Low Income Housing Coalition: NLIHC) の 2017 年の分析によると、米国では超低所得者層向け賃貸物件は 720 万件不足。当該世帯の 71% が、住宅費に収入の半分以上を費やすことを余儀なくされていることになる。連邦政府のガイドラインでは、住宅費は収入の 30% 未満が適切だとされている。「住宅費が家計を著しく圧迫する賃貸居住者は、家計のやりくりのため、生活必需品を大幅に犠牲にせざるを得なくなっています」。この生活必需品には、NLIHC の報告によると食料や移動手段、育児費、医療費が含まれる。
ギャランテ氏は、この家賃の上昇がさまざまな事情の「パーフェクト ストーム (複数の災難が同時発生することで壊滅的な状況に至ること)」に起因すると考えている。そこには、サブプライム住宅ローン危機 (市場が未だに賃貸物件居住者で溢れかえっている原因) やミレニアル世代の高学歴な労働者の都市流入 (高収入のため家賃上昇を引き起こす) と、高い建設コスト (材料がより高価になり、土地と労働力が不足することで、さらに上昇) が含まれる。
こうした複雑な問題にはさまざまな解決策が必要となるが、モジュール建築の前途は有望のようだ。多世帯向け建築へ製造業の心構えを持ち込む新世代のスタートアップにより、ティッピング ポイントへ突き進んでいる。
モジュラーなメリット
モジュール建築は、レゴ ブロックや自動車に例えられることが多い。レゴ ブロックで作られたおもちゃの建物同様、建物はあらゆる様式で構成できる。そして自動車同様、構造物の構成要素である各部品は工場の組立ラインでプレファブリケーションされる。
そのメリットにはさまざまなものがあるが、最たるものがスピードだ。「工期を 30 – 50% 短縮できます」と語るハーディマン氏の会社は、Autodesk BIM 360 や Revit などのツールを利用している。「一般的な現場では、基礎工事をすべて行ってから 1 階部分の建設に着手し、その後 2 階、3 階と工事を進めます。モジュール建築であれば、基礎工事を行っている間にオフサイトで建物は建設されています」。
「キャッシュフローの面でも大きな利点をもたらします」と、ハーディマン氏。「当局やデベロッパーは、居住者の入居時期を早めることができます」。
モジュラー ビルディングは収益を迅速化するだけではなく、長期的にはコストも削減。ニューヨークを拠点とする中高層モジュラー ビルディング メーカー FullStack Modular のロジャー・クルラック CEO は「製造プロセスを繰り返す毎にプロセスを向上させられます」と話す。「同様の外観でなくても、さらに同じプログラムを使用したのでなくても、モジュラー ビルディングはすべて同様の一般構成を共有しています。同じプロセスを何度も繰り返せば効率性が高まり、コストの削減につながります」。
最後に、労働力のメリットもある。「施工会社が熟練労働者を確保するのは、特に米国の都市部ではますます困難になってきています」と、ハーディマン氏。多くの建設労働者が世界金融危機の際に業界を去り、戻ってくることはなかった。その一方で、業界に留まった労働人口は急速に高齢化が進んでいるが、若年層は従来の建設業につきものの肉体的負担や移動の必要性を嫌うため、世代交代が進んでいない。
カリフォルニア州ヴァレーホを拠点とするモジュラー住宅メーカー Factory_OS の Housing Innovation Lab でディレクターも務めるギャランテ氏は「建設作業の工業化により、この業界に従事可能な人材の幅を大きく拡大できます」と話す。「技術トレーニングを受けていない労働者を工場で雇うのは (現場に登用するより) ずっと簡単です。労働環境も良好になり、自宅から近い場所に毎日通うことができます。また工場は人間工学を考慮した、身体的な重労働を防ぐ造りとなっています」。
アフォーダブルな製造
モジュラー ビルディングがデベロッパーにとって魅力的なものになっている要素は、モジュラー ビルディングをアフォーダブル住宅の理想的なソリューションとしている要素でもある。
例えば工期の短さは、モジュラー ビルディングによって住宅供給を迅速に増加できることを意味しており、これは家賃を緩和する効果をもたらす。「既にサンフランシスコでは、その効果が現れつつあります」と、ギャランテ氏。「この 1 年に稼働し始めた新築住宅によって、サンフランシスコの家賃は市場価格の上限で頭打ちになっています」。
彼女は、モジュラー ビルディングは市場を通じて波及効果をもたらせるとも付け加える。高騰した家賃が供給により押し下げられると、より多くの人が住宅を利用できるようになり、中間所得層向け住宅の競争率とコストが低下する。「これらの新築住宅へ入居する余裕がより多くの人に生まれれば、残りの住宅市場への負担も取り除かれます」。
その一方で市場の低価格層においては、公営住宅を運営する自治体が、より多くの住宅を低予算で建設するために、効率性の向上が役立つ。そのため都市の多くがモジュール建築の将来性に楽観的で、そこにはニューヨークやシアトルなど過密人口で高需要の都市も含まれる。ニューヨークでは 2018 年春に、市の住宅保護開発部 (Department of Housing Preservation and Development: HPD) がモジュール工法のパイロット プログラムを始動させている。さらに所得、用途がさまざまなブルックリンのアフォーダブル住宅開発のデザイン、建設、管理の見積依頼 (RFP) コンペを発表し、市の歴史上初めて、公共住宅プロジェクトに対してモジュール工法を要求することとなった。「こうしたニューヨークの動きは称賛に値します。モジュラーに信頼を起き、アフォーダブル住宅不足に対する解決策としてモジュラーの正当性を信じる、と宣言したわけですから」と、クルラック氏。
シアトルでは、キング郡地域福祉部 (DCHS) が同様にモジュール建築のパイロット プログラムをスタートさせており、こちらは 3 つの異なる低所得層向け住宅プロジェクトから構成されている。まずショアライン市とのパートナーシップは 80 – 100 棟の住宅ユニットから構成されており、これらはオフサイトで構築され、現場で建設されたコンクリート製の土台壁上にクレーンで配置される。
2 つ目は 20 室のワンルーム マンションから構成される予定だ。積み重ねと運搬が可能で、一般的な住宅プロジェクトには適しない小区画に設置される。キング郡の一般的なユニット コストが 35 万ドルなのに対して、各ユニットの推定コストは約 15 万ドルだ。最後のプロジェクトはシアトルに建設されるキャンパスを思わせるホームレス向けシェルター。9 棟の宿舎に 72 床のベッドが用意され、中庭を囲むように配置された宿舎には衛生設備や洗濯室、キッチン、ケースマネジメント オフィスが用意されている。
住宅供給プログラムマネージャーのマーク・エラーブルック氏は「住宅総数が約 37 万戸のキング郡で、低所得層向け住宅の不足数は約 9 万戸です」と話す。「そのため、キング郡では空き物件が著しく不足しています。私は直面する問題に対処するため、あらゆる選択肢を検討することがすべての機関の責務だとであると考えています。住宅供給のコストドライバー (原価を増減させる要因) として時間と建設の実コストに目を向けるなら、コストの抑制や時間の経過に伴うコストの上昇を低減において、モジュラー住宅に将来性を見い出しています」。
モジュラーが成功するかどうかは、まだ現時点では分からない。だが低所得層のためにも、政府やデベロッパーはモジュラー建築に機会を与えるべきだと、ハーディマン氏は話す。「私たちは問題解決の特効薬ではありません」と、ハーディマン氏。「でも問題解決への議論の場に立ち会って“力になりますよ”と伝えたいのです」。