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八千代エンジニヤリングは、国土交通省が推進する「i-Construction」施策よりも早く、2005 年度にオートデスクの土木用 3 次元 CAD「AutoCAD Land Development Desktop」(当時)を導入し、3D 設計を始めた。現在では約 800 人の技術者の 4 割に当たる 380 ライセンスもの BIM/CIM ソリューション「AEC Collection」を導入し、様々な分野の技術者が自ら、3D 設計に取り組んでいる。
同社代表取締役社長 執行役員の出水重光氏に「BIM/CIM に取り組む 5 つの理由」を直撃取材した。
日本の土木分野で 3 次元設計の導入が本格的に進み始めたのは、2012 年度後半に国土交通省が CIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)試行プロジェクトを始めたときだった。国交省はさらに 2016 年度から全省を挙げて「i-Construction」施策に取り組み始めた。「i-Construction」とは、3D モデルによって土木構造物の調査・設計を行う CIM と、3D モデルによって施工を行う「情報化施工」、そして完成後の 3D モデルを生かした維持管理をシームレスに連携させたワークフローだ。日本では少子高齢化によって「生産年齢人口」と呼ばれる 15 歳から 64 歳までの人口が、1990 年代から減り続けている。特に建設業はその影響を大きく受けており、今後の人手不足は厳しくなる一方だ。
日本を代表する大手建設コンサルタント、八千代エンジニヤリングは、国交省の CIM 試行や i-Construction に先立って、独自の BIM/CIM活用戦略に取り組んできた。その背景について、八千代エンジニヤリング代表取締役社長 執行役員の出水重光氏は「BIM/CIM に取り組む 5 つの理由」を挙げている。
「初めて CIM ソフトを見たとき、これは地盤を扱う建設コンサルタントの業務には欠かせないツールだと直感しました」と出水氏は振り返る。
「私はダムの技術者出身なのですが、あるダムを設計したとき、地下の地盤に複雑に亀裂が入っており、それを表現するのに模型を作ったり、何枚も図面を描いたりして大変でした。その点、コンピューターの中で地盤をそっくりそのまま3D で表現できる CIM ソフトなら、地盤の構造を余すことなく表現でき、発注者や地元住民など誰でも理解しやすいと思ったのです」(出水氏)。
八千代エンジニヤリングが、CIM ソフトの先駆けともいえるオートデスクの土木用 3 次元 CAD「AutoCAD Land Development Desktop」を導入したのは 2005 年のことだった。
「3 次元で土木設計を行えるソフトは当時、オートデスク製品しかありませんでした」と出水氏は言う。社内で最も早く 3D 設計を導入したのは道路・交通部だった。同社道路・交通部 技術第四課副主任の向平政義氏は「道路の新設計画では、切土・盛土量がバランスするようにルート選定を行う必要がありますが、AutoCAD は道路の平面・縦断線形を決めると土量計算を自動的に行ってくれるので、とても作業効率が上がりました」と説明する。
このほか、2 本のトンネルを近接施工する工事の設計では、3D によって空間的な位置関係を様々な角度から検証するなど、従来の 2 次元図面では手間ひまがかかっていた作業を効率的に行うなど、3D の強みを生かした。
「通常、2D 設計から 3D 設計に移行するには、大きなギャップを感じるものです。しかし AutoCAD の場合は同じソフト、同じメニュー画面を使いながら 2D から 3D へと自然に移行できるので、あまり違和感はありませんでした」と向平氏は言う。
同社ではその後、2013 年に CIM 推進室を設置し、全社での CIM 導入を進めた。使用ソフトはオートデスクの BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や CIM 関連ソフトがセットになった「AEC Collection」だ。
現在、ライセンス数は 380 にも上る。同社には約 800 人の技術者がいるが、その 4 割が同時に BIM/CIM ソフトを使って業務を遂行できるようにしたものだ。これだけのライセンスを保有する建設コンサルタントは珍しい。
その狙いを出水氏は「建設コンサルタントの業務は、ピークの時期になると一時的に業務量が急増します。そのとき、ライセンスが足りなくなると納期遅れなどが生じるため、常に 2 ~ 3 割の余裕をみた本数を用意しておくためです」と説明する。
八千代エンジニヤリングの特徴は、建設コンサルタント業務のうち、地質や道路、電気・電子、建設環境など多岐にわたる部門にバランスよく技術者がいることも挙げられる。
「構造や環境など、異分野の技術者同士が情報交換しながら業務を進めることがよくあります。技術情報の交換するプラットフォームとして BIM/CIM を活用する狙いもありました。オートデスク製品を選んだのは、土木・建築から機械、電気、設備まで幅広い分野のソリューションがそろっており、相互のデータ交換がスムーズに行えることを期待してのことです」(出水氏)。
八千代エンジニヤリングは、2014 年夏にオートデスクの BIM ソフト「Revit」を使い始めた。その成果は早速、現れた。導入から約 1 カ月後の 9 月、沖縄・石垣島の敷地を舞台に開催された BIM 仮想コンペ「Build Live Japan 2014」にグループ会社で参加したのだ。
BIM コンペに参加した狙いを、同社建築部専門課長の遠藤隆之氏は「せっかく BIM を導入するのだから、チャレンジしようという気持ちで参加しました」と説明する。
20 ~ 30 代の有志がチームを組んで参加したもので、日常業務をこなしながら、100 時間という制約時間の中で施設を設計し、チャレンジ賞を獲得したのだ。
翌年も新たなメンバーが「Build Live Japan 2015」に参加し、大分・杵築市役所前通りを再開発するというテーマに沿って、複数の建物を設計。一歩進んだ「BIM プログレス賞」を受賞した。
出水社長は「BIM 導入からわずか 1 カ月くらいで、それなりに建物の設計ができているのには驚きました。その翌年はさらにレベルが上がっている。若い社員が BIM ソフトをどんどん使いこなすと、以前は考えられなかった成果が出せることを目の当たりにしました」と当時の衝撃を語る。
八千代エンジニヤリングの機電部は、その名の通り、建設コンサルタントの中でも機械と電気設備を中心に扱う部署だ。2014 年に Revit を導入したほか、機械設計用の 3 次元 CAD、Inventor も使っているのが特徴だ。
同社機電部 技術第一課 主幹の阿部匡浩氏は「ダムの排水ポンプ設備を交換するプロジェクトなどの計画では、3D モデルが必要になりました」と言う。
ポンプ室はダム堤体内の漏水を排水するため、最下部に埋め込まれるようにある。既存のポンプを取り外して、ダム堤体を貫く「監査廊」という通路から搬出し、新しいポンプを搬入するという作業だ。この作業は今後も必要となるため、監査廊には長期に亘って利用できる常設型の鋼製レールを設置した。
「新旧ポンプが監査廊内の設備と接触することなく、搬出できることを確認するため、監査廊内部を 3D レーザースキャナーで点群計測し、そのデータを活用することで問題なく通過できることを確認できました。従来の紙図面に比べるとより精度よく検討できるので、2D の図面を使った検討に比べて施工時の手戻りが少ない計画が作れました」と、阿部氏は振り返る。
今後の日本は、社会インフラの新設は徐々に減り、既存インフラの補修や維持管理の比率が高まってくる。既存構造物を点群計測し、新設する土木・建築構造物や機械・電気設備の BIM/CIM モデルと合わせて計画するニースはどんどん増えてくるだろう。
出水社長は「技術者自身が BIM/CIM ソフトを使うことで、現場や業務を深く理解することができ、新しい設計手法や工法などのアイデアが生まれてきます。これを他人任せにしていてはいけません。今後は BIM/CIM の属性情報をうまく活用した業務の進め方が、社員から生まれてくることを期待しています」と話を締めくくった。