丸栄コンクリート工業株式会社
生産性向上へ、建設資材メーカーの挑戦 3D 化も視野に PCa 製品の作図を自動化
AUTOCAD、AUTODESK FORGE(DESIGN AUTOMATION API FOR INVENTOR)
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丸栄コンクリート工業株式会社
AUTOCAD、AUTODESK FORGE(DESIGN AUTOMATION API FOR INVENTOR)
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岐阜県羽島市に本社を置く丸栄コンクリート工業は、ボックスカルバートやL型擁壁など土木工事の現場で用いられる PCa(プレキャストコンクリート)製品のメーカーだ。生産性の向上を図ろうと、AutoCAD をベースとした製品図や割付図の作図プロセスの自動化に乗り出した。オートデスクが開発者向けプラットフォームとして Web サービス API を提供する「Autodesk Forge(オートデスク フォージ)」を用いて、3 次元化にも備える。
写真前列左から、丸栄コンクリート工業株式会社 吉川 裕介 氏、同 中川 展宏 氏、同 棚橋 泰文 氏、後列左から、同 堀 孝太朗 氏、SCSK 株式会社 中嶋 悠太 氏、同 阿部 大如 氏
丸栄コンクリート工業 東京設計課係長の中川展宏氏は狙い通りの結果に満足そうだ。
設計課の仕事は、道路工事や河川工事など現場の状況に合わせて、PCa(プレキャストコンクリート)製品の割付図を描き、製品一つひとつを工場で製造するための製品図を描くこと。その作図時間を、1 枚当たり 30 ~ 60 分から 1 ~ 2 分にまで大幅に短縮することに成功したというのである。
「最近は、図面精度への要求水準が上がっています。それに応えるために作図時間が長くなりがちだっただけに、短縮効果は大きいですね」(中川氏)。
しかも、それだけのスピード作図が、誰にでも可能になる。営業担当は自前のパソコンで設計担当とほぼ同じ水準の割付図・製品図を描ける。
「設計担当のように深い製品知識を持ち合わせていなくても、作図可能です。たとえ新入社員でも、作図の方法を 30 分も学べば、十分に利用できるはずです」(中川氏)。
システムを起動すると、製品名や寸法を選ぶ作業から始める。基本操作は一覧表示される選択肢から選んだり数字を入力したりするだけ。カーソルは自動で次の入力項目に移るため、質問に答える感覚で作業を進められる。入力ミスを避けられる造りだ。
作図を担うのは、基本は設計担当だが、急ぎの案件や単純な案件なら、顧客との接点になる営業担当が自ら作図できたほうがいい。迅速な対応は顧客満足度の向上につながるからだ。
「自動化」や「誰でも」という目標を実現したのは、カスタマイズで柔軟に機能を拡張できる AutoCAD と、オートデスクが開発者向けのプラットフォームとして提供する Web サービス API「Autodesk Forge」だ。丸栄コンクリート工業はオートデスクの認定販売店でもある SCSK 株式会社の支援を受け、このサービスを用いた新しいシステムを構築した。
丸栄コンクリート工業株式会社 仙台・東京設計部 東京設計課 中川 展宏 氏
SCSK は多様なITサービス・ソリューションを提供する会社。製造業向けに AutoCAD のカスタマイズ開発を数多く手掛け、自動作図プラグインも提供する。AutoCAD での自動化に多くの実績を持つ、格好のパートナーである。
システム開発にスタートしたのは、2019 年 6 月。東京設計課の中川氏を中心に、静岡設計課や神戸設計課の担当者らも交え、6 人のチームで開発に取り組んだ。
「自動化」の課題は、既製品の製品図を基に作図する時、現場に応じた寸法や付属品の情報を反映させようとすると、バリエーションが数百億を超えること。テンプレートでは対応し切れない。現場に応じた情報を元の製品図に反映させられる仕組みが求められた。
製品重量や重心位置算出のための Inventor による 3D 出力 Image courtesy of Maruei Concrete Industry Co.LTD.
この要件に応えたのが、AutoCAD の基本機能を利用した SCSK の自動作図プラグインである。このプラグインを用いると、基本機能をテキスト形式で制御できるようになるため、テキストで記述した仕様を基に作図機能を実行すれば、仕様通りの図面を自動生成できる。
基本機能の一つには例えば、入力する変数に応じて図形を自由に伸縮させる「ダイナミックブロック」がある。現場に応じた情報を元の製品図に反映させられる仕組みとしてこれらの機能を生かし、たとえバリエーションが数百億に上っても全ての図面を自動生成できる仕組みを実現した。
SCSK 株式会社 プラットフォーム事業グループ 製造エンジニアリング事業本部 PLM ソリューション部 第二課 中嶋 悠太 氏
一方、「誰でも」の課題は、設計担当以外のパソコンには AutoCAD がインストールされていないが、設計担当と同水準の図面を出力できるようにすることが求められた。
そこで活用したのが、先ほど紹介した「Autodesk Forge」だ。クラウド上で提供される AutoCAD の作図機能を、この「Autodesk Forge」を介して全てのパソコンで利用できる仕組みを整えた。この仕組みによって、営業担当でも設計担当と同水準の図面を出力できるにようになった。
また「Autodesk Forge」を介して、製造業向け3次元(3D)CADである Inventor (Design Automation API for Inventor) も利用できるようにしたことから、製品の重心位置を高精度で算出したり割付図を 3D で出力したりすることも可能だ。「国の動向から考えても、今後、3D 化が求められるのは確実。そのため将来に備えて、3D 化にも対応できる仕組みを取り入れました」と、中川氏は将来をにらむ。
丸栄コンクリート工業では「自動化」や「誰でも」という要望を満たすものであることはもちろん、使用感が良いものであることにもこだわった。そこには、自動化に挑戦するのは今回が初めてではないといういきさつもある。
同社では実は、作図プロセスの自動化に取り組んだことがある。「しかし自動化に向けたアプローチの違いから、使い勝手に難がありました。今回は、使えるシステム、使いたくなるシステムの開発を目指しました」(中川氏)。
工夫の1つが、入力手間を最小限に抑えることだ。本社サーバーとの連携を図り、画面上には本社サーバー上のデータ格納庫にある製品情報を取り込み、一覧表示されるものの中から該当するものを選択する、という手順を確立した。
また UI(ユーザーインターフェース)も強く意識した。SCSK でシステム開発を担当した製造エンジニアリング事業本部の中嶋悠太氏は「途中で新型コロナウイルス感染症の感染拡大が始まったものの、できるだけ顔を合わせる機会を設けることでご要望を的確に理解するように努め、画面の造りや操作感などについて検討を重ねました」と明かす。
新しいシステムは 2020 年 9 月、水路用製品の一部を対象にリリースを始め、主力製品であるボックスカルバートや L 型擁壁の一部にまで、いまは対象を広げている。作図時間の短縮効果を徐々に、全製品へと広げる予定だ。
喫緊の課題は、来年度からより正確な図面を作図するという会社方針への対応。現状のままでは、作図時間が1枚当たり3~4時間と従来に比べ大幅に延びる見通しだ。中川氏は「ここで短縮効果を得るため、システムの完全導入を早くに実現したいですね」と意気込む。
本記事は、日経コンストラクション 12 月号および日経クロステックに掲載された記事を、株式会社日経ビーピーの許可のもと転載しています。
丸栄コンクリート工業は社会基盤技術を支えるものづくり企業として、大正 14 年(1925)の創業以来、日本の国土作りとともに歩んできました。
現在ではコンクリート製品の総合メーカーとして、プレキャスト製品の研究・開発、設計、製造、販売ともに、土木建設工事を行っております。
岐阜県羽島市に本社を置き、北は仙台から南は広島まで 10 支店、28 営業所を展開、幅広いネットワークにより全国各地の施工現場に合わせたご提案を実現しています。また、計 9 ヶ所の自社工場と OEM による契約工場を製造拠点とし、全国各地に製品を納入する体制を整えています。
主力製品として、ボックスカルバートや L 形擁壁などをはじめ、道路・河川・港湾等で用いられるプレキャスト製品を多数取りそろえています。現在の製品数は 1,800 種以上、オリジナル製品・工法も多くあります。
建設業では「労働者の減少」や「少子高齢化」に伴う熟練工不足により、1 人当たりの生産性向上が喫緊の課題となっています。
プレキャスト化により、工期短縮、施工性向上、省人化・省力化、機能性向上、品質向上、省資源化が期待でき、建設業の生産性向上に大きく貢献しています。
これまで東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンといったテーマパークや、全国地方公共団体、空港、高速道路など、納入実績は多岐にわたります。
近年は大雨・台風・地震などの自然災害への備えとして、特に護岸整備や排水・貯水機能を有した施設など、防災・減災への関心が高まっています。
丸栄コンクリート工業株式会社は高い技術力でそれぞれの時代に応じた製品・工法を開発し、幅広く提供することで社会基盤整備に貢献しています。
お客様から最初に声をかけていただける「ファーストコールカンパニー」を目指し、日々新たな挑戦を続けています。
左から 大岡 和治 所長、藤井 晃 課長、吉田 貴彦 主任、加藤 久仁明 工場長
鈴木 慎治 工場長
鈴木 武司 氏
情報システム管理室 有志一同