株式会社チャレナジー
「プロペラの無い風車」による風力発電を
実現した Inventor Nastran を用いた
シミュレーション 主体の開発
Product Design & Manufacturing Collection
Autodesk® Inventor®
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台風も電力に変えるマグナス効果+垂直軸の全く新しい風力発電機 ──その開発は膨大なシミュレーションの積み重ねがカギとなった
よく言われることですが、実は風力発電の設計は、たとえば自動車等の設計よりも、ある意味ずっと難しいと言われています。なぜかというと、自動車が走るのは 1 日のうち数時間程度ですが、風力発電機は風が吹いている限り 24 時間 365 日休みなく動き続けなければなりません。だから設計品質が高くなければ、10 年持つはずの風力発電施設が 1 カ月で壊れかねない。高品質な設計が求められるわけで……そこではシミュレーションの活用が必須なのです。
—清水敦史 氏
株式会社チャレナジー 代表取締役 CEO
株式会社チャレナジー 代表取締役 CEO 清水敦史 氏
2011 年 3 月の東日本大震災と原発事故は日本のエネルギー政策を変え、太陽光や風力発電など再生可能エネルギー活用への契機となった。今回紹介する株式会社チャレナジーもこの流れから生まれた一社である。その主役は当時FA機器メーカーの開発者だった清水敦史氏。清水氏は原発事故で受けたショックを契機に新事業を創生したのである。
「問題はどんなエネルギーを目指すのか?でしたが、調査・研究を経て私がたどり着いたのが、台風をもエネルギー源に変える画期的な風力発電機の開発だったのです」。風力発電と言えば、山上や洋上に設けた巨大プロペラを回して発電するプロペラ式が一般的だろう。しかし、実はこの方式は発電可能な風向きや風速が限られており、騒音やバードストライクも問題だった。特に日本では、台風の風速 25km/s 超の風は破損や故障のリスクが高かったのである。
「このことが日本で風力発電が普及しない理由の一つでした。裏返せば、台風時も発電できる機械ならイノベーションが起こせるはずです」。そこで清水氏が考えたのが、マグナス効果と垂直軸風車を融合した全く新しい風力発電の仕組みだった。
垂直軸マグナス方式風力発電機と清水氏(右)、黒田氏(左)
マグナス効果とは、気流や水流の中に置いた円柱や球を回転させると、流れに対し垂直方向に揚力が働くという現象だ。そこで、風車上で支持された円筒をモーター駆動しマグナス効果を発生させて風車全体を回そう──というのが、清水氏の垂直軸マグナス方式である。
「もともと垂直軸風車は風向きに影響されず、マグナス式にすれば、円筒の回転数を調整することで風車全体の回転もコントロールできます。強風時の破壊や故障も回避できるわけですね」。
「プロペラの無い風力発電」構想を得た清水氏はいよいよ事業化へ動き出す。2013 年に特許を取得し 2014 年には株式会社チャレナジーを設立。そして、その最初の取り組みの一つが Autodesk Inventor の導入だった。
「Inventor を選んだのは、前職で私自身がユーザーだったから。新会社でも慣れた環境で開発したかったんですよ」と語る清水氏だが、実は理由はもう一つあった。
当時、オートデスクが提供していた「クリーンテックパートナープログラム(※)」の存在である。
これは環境関連のソリューション開発支援のためオートデスクが自社製品を提供し、この分野のベンチャー企業をバックアップする取り組みで、清水氏はこのプログラムに応募。期間限定ながら無償で Inventor を含む Product Design & Manufacturing Collection を入手したのである。
「私たちにとって渡りに船、しかも使い慣れた船だったわけです」
こうして 2016 年には沖縄県南城市に 1kW 実証機を設置し検証を開始した。そして 2017 年、同社は再びオートデスク製品の活用により大きなステップアップを果たす。Product Design & Manufacturing Collection にのみ提供されている Inventor Nastran によるシミュレーションの導入である。
※クリーンテックパートナープログラム:「テクノロジ支援プログラム」と名前を変えて現在も継承。デザインを通じ環境問題や社会問題の解決に取り組む非営利団体にソフトウェアを寄贈している。
新方式の風力発電機だけにノウハウの蓄積はなく、参考となる設計もない ボルト 1 本から全てをシミュレーションで確認する必要があった
石垣島の10kW試験機
「最初の 1kW 実証機を設計していた頃は、シミュレーションはあまり使っていなかったんです。Inventor も単純に設計し図面を引いて、という基本的な使い方だけで。シミュレーション機能があるのに使いこなせていなかった」と、当時を回想して清水氏は苦笑いする。
「しかし、10kW 機の開発に取りかかると、やはり 1kW 機と 10kW 機では全く違うと思い始めました。1kW 機のときよりも想定される荷重が大きく、強度を確保しつつ軽量化する必要があります。風力発電機の設計不良は時に大事故に繋がります。倒壊など絶対あってはならないのです」。
自動車産業のように長い歴史を持つモノづくりとは異なり、実用化の前例がないマグナス効果+垂直軸という新方式の風力発電機開発だけに、ノウハウの蓄積はなく参考となる設計もない。
「一から」どころか「ゼロから」設計しなければならず、それこそボルト1本から全てを確認する必要があった。
こうした状況にいち早く気付き、シミュレーションの重要性を指摘して Inventor Nastran の活用を進言したのが、当時、同社へ転職してきたばかりの黒田芳雄氏だった。
株式会社チャレナジー エンジニア(構造担当) 黒田芳雄 氏
Inventor Nastran は、Inventor に完全統合しながら多様に解析できる高機能解析ソフト。線形静解析、固有値解析から非線形領域(塑性領域)の解析や熱・応答・座屈解析まで行える。新方式の風力発電だからこそ高機能解析ツールの活用がカギだ、と黒田氏は直感したのである。
「清水が言う通り安全性のためにも強度は非常に重要でした。他方、軽量化を目指すと必然的に“薄物”を扱うことになり、変形も大きくなるわけで……。相反する目標を両立させる複雑な強度検討には、Inventor Nastran の非線形解析が最適だったのです」。
そう語る黒田氏も Inventor Nastran の本格的な使用は初めてだったが、運用を任されると黒田氏はすぐに基本的な操作を習得し、実務へ投入した。
「分かりやすいソフトだしハードルは高くありません。YouTube にオートデスクのレクチャーサイトがあるので自学習も簡単。Autodesk のフォーラムで質問すればすぐ教えてもらえます。私も質問しまくりましたね」。
やがて黒田氏によるシミュレーション主体の開発設計スタイルは高い効果を発揮。短期間のうちに、チャレナジーの開発における基本姿勢となっていった。
Inventor Nastranを活用したシミュレーション
「現在では黒田が作りあげたシミュレーション文化が完全に定着したので、どんな部品もまずシミュレーションして強度計算します。そして、皆で結果を見ながらディスカッションし、また設計し直してシミュレーション……という繰り返しで進めています」(清水氏)。
開発中の 10kW 機はフィリピンの北部にあるバタネスという地域に建設予定のもので、ボルト等以外の主要加工部品は 100 点前後。ボルトまで入れると 400 点ほどになる。
自動車等に比べれば多いとまでは言えないが、前述の通りその一個一個全てにさまざまな解析を施すので作業は膨大な量に達する。
「非線形の解析を中心に疲労解析や座屈解析も行っており、周波数応答解析も最近使っています。モデリングと解析が一体化され使いやすい Inventor Nastran だから、効率的に進められているんです」(黒田氏)。
まさにシミュレーションのデパートと呼びたくなるような活用ぶりだが、これには理由がある。
Inventor Nastran を活用したシミュレーション
「一つには、この 10kW 機は途中で設計変更を繰り返したからですね。根本的な設計からがらりと変え続けて、当初とは共通部品がないくらい……いまやほぼ別物です」と清水氏は笑う。当然、変更のたびシミュレーションし直すため、回数は自ずと増えていったのである。
そして、もう一つの理由は、前述の通り対象となるのが新方式の風力発電機だからだ、と清水氏は続ける。
「風車は軽ければ軽いほど発電効率が上がります。シンプルな構造にすれば品質も確保できるし、コストも抑えられますから風車の羽根もできるだけ薄くしたい……でも、薄くしすぎて台風下で壊れては元も子もないんですよ」。
つまり、常に正反対のことを両立させようとしているわけで、必然的にそれは非常に難しい設計となる。しかも、ベンチャー企業には何十年もかけて試行を積み重ねる余裕はないのである。
「となると、残された手段はシミュレーションしかありません。あらゆる状況を想定し、それこそ風速数十メートルのなか地震が来ても大丈夫、といった前提条件で繰り返し荷重計算していくのです。効率よくシミュレーションできる Inventor Nastran がなかったら不可能でした」(清水氏)。
Inventor Nastran を活用したシミュレーション
10kW 機の設計はすでにひと通り完了し、現在はいっそうのコストダウンのためシミュレーションが繰り返されている。現地でも基礎工事が始まっており、8 月に竣工予定だ。
「私も現地へ飛ぶ予定です。やはり最終的には自分の目で見ないと安心できないし、納得できません」と語る清水氏に今後の展開について聞いてみた。
「私たちの事業計画は今後も大胆な挑戦の継続が全ての基本となります。具体的には、風車の大型化と洋上化です。2025 年に 100kW 級の実現を構想しており、風車直径 20~30 mほどで、その次の 1MW 機は直径 80 ~ 100 m 規模となるでしょう。当然、空力や弾性力学の連成解析も重要だし、CFRP 等を扱うなら異方性や繊維配向等を意識した樹脂流動解析も必要です。Inventor Nastran に加え Moldflow も使うことになるかも……。シミュレーションの果たす役割はさらに大きくなっていきますね」。