ブラザー工業株式会社

デザイナーの探求心と
ジェネレーティブ デザインが融合
100 年前の昭三式ミシンを
最新テクノロジーで 現代に蘇らせる

Fusion 360
Fusion 360 Generative Design Extension

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画像提供: ブラザー工業株式会社

Summary

昭三式ミシンの再定義プロジェクトで、新たな発見と感動をもたらす。

ジェネレーティブ デザインを実プロジェクトでトライしたいと考えて、昭和三年と令和三年といったタイミングの良さから、最新テクノロジーでのリデザインに挑戦しました。

服部 満晴 氏
ブラザー工業株式会社 開発センター 総合デザイン部

ブラザー工業株式会社 開発センター 総合デザイン部  服部 満晴 氏

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ものづくりを通して優れた価値を創造し、迅速に提供するために“At your side.”の精神で、ブラザーグループは変革を恐れずに大きな成長を成し遂げてきた。同グループの歴史は、1908 年にミシンの修理から始まり、1928 年に発表した昭三式ミシン(麦わら帽子製造用環縫ミシン)でミシンの国産化を実現し、成長の礎を築いてきた。そして、令和三年を記念してブラザー工業株式会社の開発センター 総合デザイン部では、Fusion 360 および Generative Design Extension を活用して、約 100 年後の最新テクノロジーによって再定義された令三式ミシンをリデザインした。

デザイナーでも使える CAM への興味から Fusion 360 と出会う

令三式ミシンリデザインのきっかけを作り、プロジェクト全体を推進してきたブラザー工業株式会社 開発センター 総合デザイン部の服部 満晴氏は、その経緯を次のように振り返る。

「そもそものきっかけは、Fusion 360 とジェネレーティブ デザインとの出会いでした。数年前から、デザイナーでも使える CAM を探していて、ものづくりフェアという展示会で見て興味が湧いた Fusion 360 を使い始めました。その後、オートデスクの主催するキャラバンに参加して、ジェネレーティブ デザインについて学びました。デザイナーとして、苦労や努力の跡を気づかせない洗練された使いやすい工業製品を目指してきましたが、一方で面倒くさがりなところもあり、サボれるところはサボりたい、そんな思いから、AI を活用したジェネレーティブ デザインには、新しい発見や刺激があると直感したのです。」

Fusion 360 のジェネレーティブ デザインに新たなデザインの可能性を見出した服部氏は、自社の製品で活用できる可能性がないか模索を続けていた。そこで注目したのが、同社のルーツともいえる昭三式ミシンの再定義だった。服部氏は「ジェネレーティブ デザインを実プロジェクトでトライしたいと考えていましたが、いきなりの実戦投入は難しく、実プロジェクト並みに条件があるものを探していたところ、昭和三年と令和三年といったタイミングの良さなどから、ほぼ 100 年前に創業者が苦労して作った昭三式ミシンの形を、今のジェネレーティブ デザインなどのテクノロジーを使ってリデザインしたらどうなるのか興味がわきました」と理由を振り返る。

ジェネレーティブ デザインにさまざまな条件を計算させたことで、提案された形状の数は 300 を超えた。ここからさらに 20 案を選び出した。

Generative Design Extension が さまざまなデザインの可能性を無限大に 引き出す

昭三式ミシンのリデザインは、服部氏が研究目的で取り組んでいたテーマだったが、社内での報告会や執行役員との個人面談などを通して、デザインチームだけではなく、開発センターにも広く知られるようになる。その結果、正式なプロジェクトとしてスタートした。開始と同時に Generative Design Extension も契約した服部氏は「Generative Design Extension を使わない理由を探すのが難しいと思います。特に、今回のようなプロジェクトでは、必須と考えていました。ジェネレーティブ デザインは Fusion 360 の基本機能として搭載されていますが、1 回計算ごとにクラウドクレジットを消費するので、常に消費量を気にしながら作業をしなければいけない点が不便と感じ、使い放題の Extension を導入しました。何度でも自由にさまざまな条件でコストを気にしないで計算できるので『挑戦できなかった可能性』が減少しました。実際に、令三式ミシンをデザインするために、300 以上のジェネレーティブ デザインを試しました」と話す。

最終的に 2 案に絞りこまれた形状の 1 つは、ジェネレーティブ デザインらしいフレーム構造のデザインだった(シルバー左)。もうひとつは、昭三式ミシンの雰囲気を感じさせるもとなった(シルバー右)。

Text + Image (Left)

Generative Design Extension によって、さまざまなデザインの可能性が示された中から、最終的に約 20 通りのデザインが選び出された。複数のデザインを絞り込んでいくために、立体的に見える空間再現ディスプレイに映し出したり、VR でさまざまな角度から見てみたり、3D プリンタで立体形状を確かめるなど、最新のテクノロジーを組み合わせて、再定義にふさわしいデザインのベースが検討された。服部氏は「ジェネレーティブ デザインによって計算された形にさまざまな驚きを感じつつ、その形状意図を読み解くプロセスを楽しみながら、最終的に2 つのベースとなるデザインを選び出しました」と振り返る。選ばれたひとつは、ジェネレーティブ デザインらしいフレーム構造のデザインだった。

もうひとつは、昭三式ミシンの雰囲気を感じさせるものとなった。この 2 つのデザインの違いは、計算時に与えた条件にある。フレーム構造のデザインは、AI が自由に計算した結果に近い。もうひとつの昭三式ミシンに近いデザインは、オリジナルの形状を重視した条件が設定されている。服部氏は「オリジナルへのリスペクトを失わないデザインを探っていきました。こちらのオリジナルに近いデザインも、よく見ると断面が丸ではなく三角で設計されています。ジェネレーティブ デザインによって、数多くの発見やアイデアをもらえました」と印象を述べる。

ジェネレーティブ デザインから着想を得た令三式ミシン(右)と 100 年前のミシンである昭三式ミシンの高精度レプリカ(左)

昭三式ミシンをリスペクトしたデザインで ブランドのイメージを蘇らせる

最終的に完成した令三式ミシンは、昭三式ミシンをリスペクトしたデザインに仕上がった。そのデザインの方向性について、服部氏は「ジェネレーティブ デザインらしさは、表に出さないようにしました。ジェネレーティブ デザインは、料理のブイヨンや出汁のように考えていて、ベースとして使ってはいますが、表層部には現れない骨格のような感じを狙いました。今回のプロジェクトでは、オリジナルを軽量化したかったわけではなく、パフォーマンスの向上なども狙っていません。あくまでも、オリジナルのコンテキストを活かしたままで、最新のテクノロジーでリデザインしたらどうなるかを実現したかったのです」と説明する。

デザインだけではなく、製造工程も最新テクノロジーが用いられている。100 年前は鋳物だった昭三式ミシンから、令三式ミシンでは金属ブロックからの削りだしが採用された。製造に携わった田中精密工業株式会社 久世 健二氏は「削り出しにおいては、Fusion 360 のデータを使って作業しました。切削時に、指紋のような模様が出ないように、細心の注意を払って作業していきました」と話す。

ブラザーミュージアムに展示されているオリジナル昭三式(上段正面)、昭三式のレプリカ(下段左)、令三式(下段右)

デザインと開発には Generative Design Extension を積極的に活用していく

昭三式ミシンの再定義プロジェクトは、社内でも高い評価を得た。実際の令三式ミシンを目にしたブラザー工業の佐々木一郎社長は、不意を突かれた驚きと感動をもって「凄いな」との言葉を漏らしたという。ジェネレーティブ デザインをベースにリデザインされた令三式ミシンは、多くの社員に感動をもたらしただけではなく、Fusion 360 とジェネレーティブ デザインによる新たなデザインや製品開発の可能性を開発チームやデザイナーにも印象づけた。

今後の取り組みについて、服部氏は「これから、実際のプロジェクトに Fusion 360 とコストを気にせず使用できる Generative Design Extension をどんどん使っていきます。まずは、部分的に使えるところから取り組んで、将来的には量産品にも活かしていきたいと考えています」と抱負を述べる。「より良い構造を得るために使います。例えば、ミシンであれば可動したときの振動を抑えるとか、強度のために犠牲になっていたメンテナンス性を向上させるなどです。昭三式ミシンが 100 年経っても動いているように、我々もデザイナーと開発チームが一体となって、100 年後にも動く製品を Fusion 360 とジェネレーティブ デザインで生み出していきたいと願っています」と服部氏は締めくくる。

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